ホーム | ブラジル国内ニュース(アーカイブ) | 「トランプを支持するか否か」=なぜかブラジルの大通りで議論と乱闘

「トランプを支持するか否か」=なぜかブラジルの大通りで議論と乱闘

 全国統一市長選の決選投票を翌日に控えた10月29日午後、サンパウロ市のパウリスタ大通りで、アメリカ大統領選の共和党候補、ドナルド・トランプ氏を支持する派、しない派に分かれて市民が集まって集会を行ったところ、両者の議論が白熱し、乱闘騒ぎとなって、警察が出動し、4人を補導する事態が起きた。
 他国の大統領選のために、ブラジル最大の繁華街の大通りでこうしたイベントが行われること事態が異例だった。集まった人数も、トランプ支持派約20人、反対派10人で、ブラジルのジウマ前大統領の罷免を求めるデモに比べれば100分の1にも満たない規模だった。
 イベントは、開会を告げる際に街宣車がアメリカ合衆国国歌を流すなどした後、穏便に行われていたが、そのうちに議論が白熱し、とっくみあいの喧嘩に発展した。
 トランプ支持派は「ヒラリーはアメリカのジウマだ」「この共産主義者め」、反対派は「ファシストめ」などと叫び、相手を罵った。支持派側はトランプ氏のみならず、「ブラジルのトランプ」と一部で言われている軍出身で、人種、女性、同性愛差別でも知られるリオ選出の下院議員、ジャイール・ボルソナロ氏のTシャツを着ていた。
 もっとも、同件に限らず、現在のブラジルでは、一部ではあるが「左翼」「右翼」を単純かつ形式的にとらえすぎているきらいがある。
 ジウマ大統領が罷免されそうになった際、同氏所属の労働者党(PT)を中心としたブラジルの左翼の人たちは、同政党が起こした大型汚職のことには言及せず、「大統領を罷免に追いやろうとするのは右翼によるクーデターだ。軍事政権が勃発した1964年と同じだ」などと叫んでいた。
 実際は、現政権のテメル大統領の民主運動党(PMDB)も、PT最大の政敵である民主社会党(PSDB)も中道、もしくは中道右派であり、両党とも歴史的には反軍政政党だ。30年前まで軍政国家だったトラウマから「軍政復古」的な空気にも拒絶感を示す人も多く、国民の大半はそれに否定的だ。実際、PTの「クーデター」なる主張は国民には受け入れられず、市長選では同党はじまって以来の大惨敗も喫している。
 だが、中には、PT側の言い分以上に過敏に反応し、「左翼、もしくはリベラルが世をおかしくした」と考え、社会状況をよく考えないで、「反保守のものとは戦うべきだ」としてトランプ氏やボルソナロ氏を支持する向きもないわけではない。「ヒラリーはアメリカのジウマだ」などという発言も、PTとアメリカの民主党とのスタンスの違い(PTは60年代に社会主義運動を行っていた人たちが多く集まった政党)も考慮せず、表面的な事柄だけを見て言動を起こすために出てきたものだろう。
 現状、ボルソナロ氏が所属するキリスト教社会党(PSC)の全国での市長数は政党ランキングで10位圏外であり、トランプ氏と比べると影響力は微々たるものだ。ただ、リオ市長で福音派教会の一つであるウニベルサル(ユニバーサル)教会の司教一族のマルセロ・クリヴェラ氏が当選するなど、右翼的な時代の空気がやや芽生えていることも事実ではある。
 このように、ブラジルでも右、左を図式的にとらえる人もいるが、それは現在の南米全体にもあてはまる傾向だ。現在、南米左翼政権の代表的存在のベネズエラではニコラス・マドゥーロ大統領による議会や国民の声を無視した圧制が続いているが、同国と蜜月関係にあるボリビアのエヴォ・モラエス大統領は、インフレ率が400%とも言われ、物資不足に悩んで国に抗議し、大統領罷免を求めているベネズエラの国民に対し、「クーデターだ」と呼んで切り捨てている。
 また、エクアドルの左派大統領であるラファエル・コレア大統領は、汚職による腐敗が問題されていたアルゼンチンのクリスチーナ政権やブラジルのジウマ政権を倒した両国の現政権に対し「ゆるやかなクーデターだった」と語っていた。