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予想を裏切った米国大統領選挙=型破りトランプの登場で世界はどうなる=駒形 秀雄

2016選挙結果

2016選挙結果

 11月8日米国で行われた大統領選挙で、当初泡沫候補とされていたドナルド トランプ氏が当選を確実にし、その意外さに、世界は衝撃を受けました。
 トランプ氏は今まで一回も政治職に就いた経験もなく、その特異な言動や女性を見下したような過去の発言も伝えられ、種々の世論調査からも、対立候補のクリントン女史に勝てないと見られていたからなのです。
 開票が進んだ10日にはトランプ氏は米国の第45代大統領に就任することが確定したのですが、さて一体、このトランプという男はどんな考えを持っているのか? 世界の大国米国を、はたまたリードする世界政治そのものをどっちの方向に向かわせようとするのか? それが良くわかりません。
 トランプは国際政治はおろか、地元米国の政界でも新顔なので世評、資料などが少なく判断材料が少ししかないのです。しかも選挙運動中には特異な発言を連発し、また、一般市民、特に女性の顰蹙を買う言動は沢山あったので、その影響を受ける私達の疑問と不安は高まります。
 正式の政策発表などはこれからで、まだ分かりませんが、今までの彼の経歴、言動などを元にこれからのトランプ政治がどうなるか? 皆様と一緒に検討してみましょう。

トランプさんはどんな人?

 ドナルド トランプ (DONALD J. TRUMP) は1946年7月ニューヨーク。マンハッタンで生まれ、70歳です。父親はドイツ系移民の子で不動産業。トランプは5人兄弟の4番目で子供の頃はやんちゃ坊主だったそうです。
 若い内から父親の会社の手伝いなどをして居ましたが、ペンシルべニア大学のワートンスクール(不動産学)を卒業した際、父親から100万ドルの資金を貰い、建設業にも参入しました。その後、不動産、ビル建設などに手を拡げ多くの浮沈を経験し乍ら成功、「不動産王」と言われました。
 後年はテレビのショー番組の司会などを務め、その活気ある言動で広く名前を知られることになります。ニューヨークの中心街には自分の名前を冠した金ぴかのビルを持ち、その資産は4千億円程度と言われています。現在3度目の結婚で夫人はスロバキア生まれ、ダンナより24歳も若い美人です。
 経歴から見ると事業家のタイプですが、直感型、自己顕示欲の強い人だ、との評もあります。

その政策はどうなる?

 トランプさんは1年にもわたる長い選挙運動中、普通の人なら言わない様な過激な発言を重ね、また、良識ある人達の顰蹙を買うような言動を暴露され、世間の注目を集めてきました。政治的に無名だったトランプ氏が競争の激しい政治家の世界で抜け出し、一人で浮き上がるにはこの様な『目立つ』方策も必要だったのかも知れません。
 結果として、批判するインテリやマスコミを退け、離反する党内幹部も抑えて、米国政治のトップの座を占める人に選ばれたのですから、その行動力、実行力は大したものだと称えざるを得ません。
 そのトランプさん、これから、米国を、更にまた米国の強い影響力を受ける世界を、どのようにリードして行くのでしょうか? 選挙中に現われたその言動から、私共ー日系人に関係の深い項目に絞って検討してみましょう。

 【1】偉大なアメリカ(AMERICAN DREAM)の実現――これらはトランプが選挙運動中に唱えたスローガンです。「今のアメリカには一握りの金持ちと多くの恵まれない人達が居る」。トランプはこの世の仕組みを変えて米国人をもっと豊かにし、米国を昔の様に発展する希望の持てる国にする。
 「着るものも、靴も、タッグを見れば外国製、食べるものまで輸入している。生来のアメリカ人(白人?)が失業して困っているのに、安い賃金で黙って働く外国人をどんどん入れている。これでは大企業ばかりが儲かって、おとなしく働いている一般民衆は貧しくなるばかりだ」
 「中国(日本も?)などの安い品には輸入税を高くして、国内製の商品が競争できるようにする。無秩序に入ってくる外国人(主としてラテンアメリカ人)の流入を防ぎ、米国市民の生活を護ろう。そして豊なアメリカ、偉大なアメリカ、の生活を取り戻すのだ。そのためには国内の税金も下げる」などが要旨です。

 【2】外交・移民――「良いメキシコ人は国内に残る。あまり程度の良くないメキシコ人が職、食を求めて米国に入ってくる。それにまぎれて、犯罪者や麻薬関係者などが米国に密入国して来る。これで米国人の職が奪われ、生活の質が悪くなる。これを防ぐため、米国とメキシコの間に塀―万里の長城を作る。これで不正入国を無くする。その建設費用はメキシコに持って貰うんだ」
 「アラブなどイスラム教徒が(難民)として米国に入ってくる。これは迷惑だ。イスラム教徒はテロ(暴力)に結びついたりしていて、米国によいことはない。だからこれの流入を防止しよう(管理を厳重にしよう)」
 「米国には不法入国、不法滞在の外国人が1100万人も居る。これらは全部国外退去させればよい」
 これは短く言えば自国民保護、不要外国人遮断の考えと取られます。

 【3】軍事・核――外国の利益のために、高い金を使って米国の軍隊を外国に駐留させることはない。「韓国や日本など米軍の駐留で利益を得ている国にはその費用をもっと負担して貰おう」
 「自分の国は自分で守ると言う原則からいけば、日本や韓国が核兵器を持つことも検討しても良いのでないか。イランとの核開発禁止協定も見直し、(イランにも核武装させること)を考えたい」
 要するに、核兵器開発を聖域とせず、必要に応じて普通の兵器並みに備えても良かろう、です。これは日本などの「核兵器開発、所持絶対反対」論者が聞けば目を回しそうな提案ですね。

 【4】地球温暖化防止協定・TPP(太平洋通商協定)――工場や自動車がガス(二酸化炭素)などを排出し、それが大気汚染し、気候変動や大雨、旱魃などの被害をもたらしている。トランプによるとこれは中国が発明した屁理屈なのだそうで、そんな事を聞いて産業発展に必要な工業化を阻害してはダメだ、従う必要はない。この協定などキャンセルして良いとのこと。また、国連に出している地球温暖化防止の分担金の支払いも止めればよい、と述べている。
 今日本の国会で揉めているTPPは「米国に不利な内容だから、承認する気はない」と。安倍さんは発効を急いでいるけど、米国が承認しなければ主役が居なくなりこの協定も発効しません。どうなるのでしょう。

 【5】その他――現在経済制裁などをやってるロシアとは話し合いし、関係改善を図りたいと好意的です。プーチンさんも接近歓迎の信号を出しています。世界的に孤立気味で淋しかったプーチンに手を差し伸べて北方領土問題まで解決したかった日本。その平和条約交渉にはどう影響が出るのでしょう?
 中国商品には45%とか高率関税適用などを唱えているが、どうなるか? 中国側としては―自国中心的になり、アジアを含む外国のことには口出しをしたくないというトランプの登場を歓迎する判断もあります。日本も米国の抑えに頼らず、中国と自力で向き合う覚悟が必要なようです。
 他にも「女は男次第さ」とかの面白い話も沢山有りますが、紙面もないのでここはこの位で。

良い方向へ進める

 以上、トランプ氏の言ったことなどを調べていると、自国利益優先で、関係相手先国には中々厳しい内容があります。不法入国で名指しを受けたメキシコなどは「入国禁止の柵を作り、その費用をメキシコに持たせるなど、とんでもない。人を馬鹿にするな」と早速反論していますし、「米軍の駐留代を貰うぞ」と言われている日本、欧州などは「米国との同盟関係は切っても切れない縁です。今後トランプ政権になっても親密な同盟関係を維持していきたいです」と早くも予防線を張っています。安倍さんは早速特使を派遣して新政権との情報ルートの設定、関係強化を策し、訪米しての直接会談も予定しています。
 トランプ氏の発言は選挙中の国内選挙民あての人気取りのもあり、それがそのまま実行に移されるのでは無いでしょう。 また米国のような近代民主国家では一人の人が国の全ての政策を決め、実行することはありえません。方針実行までには相手側との話しもあり、国内では多くの専門家や良識者の意見が取り入れられます。アメリカは世界最高の頭脳や良識を備えた国ですから、外部の人が、マスコミに流れた情報だけを元に一喜一憂することは不要だ、と思われます。
 しかも多国間の協定などは関係相手国との打診、交渉を経て締結されるものですから、その利害相手国としても米国、トランプ政権と十分に意思疎通をして自国の考え方、方針などを理解して貰う、そして自国に不利益を齎すような政策を事前に変えてもらう努力をすればよいのでないでしょうか。
 米国の新しい実力者となる、実務経験豊富なトランプ政権と、双方が満足のいけるような緊密な良い関係を築いていきたいものです。(komagata@uol.com.br