ブラジルが生んだ「ボサノバの歌姫」で、「音楽史上最高の歌姫」と呼ばれることも珍しくないエリス・レジーナの伝記映画「ELIS」が、24日からブラジル全国の映画館で公開となった。
エリスといえば、世界のイメージでは「ボサノバ」の印象が強い。日本を含め、国際的に売られているエリスのレコードは、ボサノバがまだ人気のあった60年代、せいぜい70年代前半が目立つのもたしかだ。
だが、実際のエリスは洒落た静かなイメージのあるボサノバとは対照的に、ブラジル音楽歴代の女性歌手の中でも、声のパワフルさが抜群と定評があり、後年にはそのレパートリーも多彩となった。また、その性格は激情型で、36年間の人生は、周囲との確執や正義感に燃えた末の軍事政権との対立、奔放な男性関係、晩年の薬物依存など、「波乱万丈」という言葉がぴったりくるものだった。
ここ10年ほど、ブラジルではカズーサやレナト・ルッソ、チン・マイアなど、伝説の歌手の伝記映画が注目されており、エリスの場合も、12年に現時点で最新の伝記本が出版され、13年に伝記ミュージカルが上演されるといった動きの中で、映画化が期待されていた。こうしてようやくの公開となった映画がが「ELIS」だ。
注目のエリス役を演じるのはアンドレイア・オルタ。エリスが死んだ翌年の1983年に生まれ、33歳の彼女は若手の実力派美人女優として注目されはじめた昨年後半にこの役を得た。彼女がエリスそっくりに、極限まで短く切った超ベリー・ショートの髪型にした際は、かなり大きな芸能ニュースにもなった。
17日付エスタード紙には、アンドレイアと、ミュージカル版でエリスを演じたライラ・ガリンの2人を取材した記事が掲載された。2人ともに共通していたのは、「エリスというパワフルな女性像を演じることのプレッシャー」で、特にライラは「結局は自分らしく演ずればいい」と悟るのに時間がかかったと告白している。
今回の映画でアンドレイアは、エリスへのなりきり振りを高く評価されている。髪型に加え、エリスのトレードマークでもあった屈託のない豪快な笑顔もよく似ている。アンドレイアいわく、エリスは19歳のときに自伝を読んで以来、あこがれの人物で、今回の演技に際しても、エリスが歌う際の息継ぎまで意識して演じたという。
注目される映画そのものについて、グローボ紙のサイトG1では「MPBの音楽の授業にはいい」とし、アンドレイアの演技もほめているが、「話そのものは表層的で先が見えやすい」と厳しい評価を下している。同記事は、伝記映画特有の、人の長い一生を時系列に忠実に2時間ほどの尺に収めることの難しさに理解は示しつつも、話の進め方が整理されておらず、ストーリーの一貫性が弱いとしている。
各メディアの評価は、四つ星から二つ星までさまざまとなっている。(17日付エスタード紙などより)