「汚職をなくすには国民の文化自体を変えるしかない」―ラヴァ・ジャット(LJ)作戦の原典、イタリア汚職撲滅作戦「マン・リンパ(ML)」の指揮官の一人ゲラルド・コロンボ氏は、そうエスタード紙3月27日付で語っている。見出しの「誰がマン・リンパ作戦を終わらせたか? それは一般国民だ」という言葉が衝撃的だ▼ML作戦は1992年に始まり、政界と企業の癒着・汚職を徹底的に洗い、約6千人が捜査対象となり、うち3千人が逮捕された。捜査されたうちの438人は国会議員、しかも4人は元首相だ。92年当時与党だった4党がその数年以内に消滅するという「浄化」をもたらした劇的な作戦だ。モーロ判事はそれを参考にしてLJ作戦を考え出したと言われる▼クリチーバ連邦地裁だけの行動では、すぐに政治家の人事権によって潰される。マスコミを味方につけて捜査内容を積極的にリーク(漏えい)し、世論を味方につけて政治家に対抗していく作戦だ。だが、どうしても「危うさ」がただよう▼デラソン・プレミアーダ(司法取引証言=報奨付供述)の内容が、最高裁判事の承認を得る前に、雑誌や新聞にすっぱ抜かれることが当たり前になっているからだ。当たり前だが、司法取引の内容は本来なら最高機密であり、それを外部に漏らすのは犯罪だ。それがマスコミに毎週のように漏れているのは、あえて漏らしているからだ。最近では連邦検察庁自体がやっている雰囲気が濃厚になっている▼レナン上院議長の解職仮処分が最高裁大法廷でひっくり返り、「議長職はそのまま」との判決が出た時から、司法内で分裂現象が起きている。あの時に執拗にレナン解任を主張した一人は連邦検察庁のジャノー長官だった▼その週末には、オデブレヒト社の司法取引証言の一人目の内容の断片がリークされ、テメル大統領はじめPMDBやPSDB要人がズラリと出てきた。月曜朝のCBNラジオである政治評論家がリークを「連邦検察庁の復讐」と表現したのを聞き、ただならぬ事態だと感じた▼その後、テメル大統領がジャノー長官に出した手紙は「LJ作戦の司法取引証言の断片がマスコミに漏えいするから、議会の経済政策の審議が邪魔されている。はやく作業を進めて終わらせろ」というもの。深読みすれば「お前がリークしていることは分かっている。議会運営の邪魔になることは辞めろ」と名指しで命令しているようにも読める▼もしやジャノー長官は、最高裁がレナンの件で「談合」したのをみて焦り、「最高裁判事の承認を待っていたら、オデブレヒト社の司法取引証言は内容の一部が否認されて公開されない恐れがある。それなら先にリークしておけ」と考えた可能性がある▼もしくは「職権乱用防止法」を議会で強行採決されれば、リークが犯罪として明確化され、やりづらくなる。その前に―と考えた可能性も。テメル政権になってから、確実にLJ作戦への包囲網は狭まっている感じだ。ジャノー長官の任期は来年までだが、果たして再選されるのか▼冒頭のコロンボ氏は「2005年までML作戦を続けたが、汚職は減らなかった」と語り、「司法からでは汚職を無くせない」と考えて07年に職を辞した。「汚職は文化」であり、いくら逮捕しても次々に汚職者が出てくる。ML作戦で捕まえた政治家の取引先には企業家や民間人がいた。「国民の文化自体を変えないと汚職は無くならない」と気付き、今では出版社経営や講演活動を通して、遵法精神の大切さを説いて回る▼ブラジルでもLJ作戦に頼りすぎるのは良くない。モーロ判事はヒーローでも神様でもない。汚職政治家を選挙で選んでいるのは国民であり、汚職が明らかになった政治家を18年の選挙で落選させることが国民の責任だ。でないと「ML作戦を終わらせたのは国民」の二の舞が、ブラジルでもいずれ起きる。(深)