ブラジルは戦後最悪の不景気のはずなのに、富豪は増えるばかり――そんな不思議な数字をスイスの大手金融機関「クレディ・スイス」(以下CS)が公表したと11月23日付エスタード紙が報道している。「貧者優遇」を旗印にしたはずのPT政権の13年間で、実は社会格差が開いていたことが伺える▼同報告によれば、この1年でブラジル人「富豪」(ミリオナリオ、100万ドル保有者、約327万レアル、約1億1700万円)が1万1千人も増えた。この増加人数は国別ランキングでなんと世界8位だ。ブラジルには全部で17万2千人もの富豪がいる。教育水準では世界60~70位の低いあらそいを続けているのに比べると、雲泥の差がある▼ドル換算だと、ブラジル人の平均所得は2011年の2万1243ドルから今年の1万8059ドルへと約3割も下落しており、世界の新興国の中でも最悪レベルだ。そんな風に平均所得は下がっているのに富豪は増えている訳だ▼世界全体で見ると「超富豪」層1%が、下半分50・8%と同じ資産を持つ。この格差拡大傾向は世界金融危機の08年以降、特に強まっている。08年は45%、昨年は49・6%、今年は50%の大台を超えたからだ。悲しいことに最貧層20%の資産は、世界の国内総生産の1%にしかならない▼逆に「最富裕1%クラブ」にはどんな人たちが入っているのか。そこに仲間入りするには74万4千ドル(243万レアル、8727万円)以上の年収が必要だ。同記事よれば、最富裕1%にはブラジルだけで24万5千人が入っている。一方で、その100倍にあたる最下層2400万人が年249ドル(814レアル)以下で生活している悲しすぎる現実がある▼気になるのは「富豪」増加リストのトップは、実は日本で73万8千人も増えていることだ。羨ましい限りだ。日本の「富豪」総計は2015年が208万8千人だったが、今年は282万6千人と73万8千人も増えた。総数でけた違いに多い米国(1350万人)に次いで世界2位。それにしても「50人に1人が富豪」という日本の現実は桁違いにすごい。ところが、そんなに「富豪」が多い割に、OECD(経済協力開発機構)加盟国の中で自殺率は3位と高い。「豊かさ」と「幸せ」はベツモノのようだ▼日本の超富裕層(純資産が5千万ドル超、約58億7千万円、1億6352万レアル)の増加率も世界最大で、総数3600人まで増えて世界第6位。これは日本人の所有資産に占める不動産の割合が高いことに関係し、それが今年の円高、住宅価格上昇などによって資産増につながった部分があるようだ▼桁違いに多い資産の数字を見ていて、ふと思い出すのは、ラヴァ・ジャット作戦で出てくる賄賂の金額だ。だいたいが「100万レアル」(3585万円)単位だ。つまり「最低額」の賄賂を3回受け取れば、それだけで「富豪」の仲間入り。日本ではたった100万円で大臣が辞職するのと比べれば、雲泥の差がある▼この12月のオデブレヒト社の司法取引証言では、テメルが選挙用裏口座に1千万レアルを振り込むよう要請したとかの疑惑が報道されている。それ1回だけで「富豪」の仲間入りだ。おそらくブラジルの新「富豪」の中には、そんな汚職政治家もかなりいるのだろうか▼すこし気になるのは、LJ作戦の指揮官セルジオ・モロ判事がクリスマス前から新年1月20日までフェリアスに入ったとのニュースだ。モロ判事も人間だから、この1年のドタバタは、さぞや疲れたことだろう。せめてフェリアスぐらいはゆっくりと心身を休めてほしい。そしてフェリアスが明けた2月、旧年以上にビシビシと厳しい態度で判決に臨んでほしいものだ▼モロ判事同様に読者の皆さんにも、ゆっくりと年末年始を休んで英気を養ってほしい。そして年越しはブラジル流に「黄色の下着」をはいて縁起をかつぎ、元旦に「富豪」になる初夢(正夢?)を見るのも一興か。それでは良い正月をお迎え下さい。(深)