【既報関連】来年4月から海外在住日本国籍所持者だけ「ジャパン・レールパス(JRパス)」が使えなくなる問題に関し、日系社会の各方面から怒りの声が上がっている。県連は11月24日にJRグループに対し嘆願書を提出する意向を発表し、12月9日には外務省中南米局の高瀬寧局長、在聖日本国総領事館に提出。13日にJRグループ、国土交通省、海外日系人協会に提出した。続いて、文協も嘆願書を提出した。朝日新聞デジタル版11月30日付も「JR乗り放題パス購入、在外邦人特例廃止へ 批判の声も」と見出しで、海外在住者の抗議の声を伝えている。祖国との関係を問い直す一つの機会であり、コロニアの声を拾ってみた。
JRグループは昨年11月11日、JRパスの利用資格変更と日本国内での試験販売について発表した。海外在住の日本国籍所持者への同パス販売は2017年3月31日で終了、日本国内での引き換えは同年6月30日までとされている。
本紙がJRグループに利用資格変更の理由を問い合わせると、「JRパスは海外から観光目的で訪日する外国人旅行者へ発売している」と前置きし、在外日本人にはあくまで「特例」として販売してきたという。
まず「近年の訪日外国人旅行客数の増加による訪日旅行関係の環境の変化」を理由にあげた。つまり、あまりにJRパス利用者が増えたために採算が悪化しつつあることをほのめかし、だから在外日本人を最初に切り捨てる判断をしたようだ。
もう一つの理由は、「永住権等の資格証明書類について国際的に定型的な書類が存在せず、国により資格取得の条件が異なるほか、それによって永住権制度の有無等による不平等が生じて」いるとの返答だった。
「頻繁に訪日できるわけではない。足が遠のく」=ブラジル日本都道府県人会連合会 山田康夫会長
ブラジル日本都道府県人会連合会の山田康夫会長(滋賀、65)は「第20回日本祭り」の準備のため、昨年も日本に渡り東京と滋賀を行き来した。
「日本の政府関係者との20分程の会議だけのために6~7回は行ったり来たり。東京に宿泊してもやることはないし、友人や親族に会いたい。そんなに頻繁に日本に行けるわけでもない。観光からも足が遠のくな」とため息をついた。
山田会長は「これからの日本での仕事の移動について考えなければ」と今後の活動を危惧しつつ、「日本人移民だって日本国籍を持たない二世と同じように観光する。なにが違うんだ」と怒りの声を上げた。
「まるで移民の年寄りいじめのよう」=秋田県人会 川合昭会長
秋田県人会の川合昭会長(秋田、81)は「JRもだが、日本の政府関係者に訴えなければ」と息巻いた。
「帰化まではしたくない。この変更で帰る気持ちが薄れる。まるで移民の年寄りをいじめているようだ」と当地の日本人移民について語った。
福島県人会の永山八郎会長(福島、82)も日系団体が一丸となり嘆願書の提出を提案。「県連、文協、援協が中心となって行動を起こさなければ。総領事館にも動いて欲しいくらいだ。私たちは日本へ観光だけでなく、被災地訪問だってする。他の外国人旅行者と同様にお金を落としている」と語った。
「おそらく東京五輪が最後の帰郷なのに…」=サンパウロ日伯援護協会 菊地義治元会長
サンパウロ日伯援護協会の菊地義治元会長(岩手、76)は「悪用する人もいるし、赤字になってきているのでは」とJR側の状況を考慮しつつ、「外国に長くいる人が可哀相。ドルは高くなりレアルは安くなる、故郷はさらに遠くなるな。でも、今度また訪日観光客が減ったら再度利用資格を変更して日本国籍所有者の使用も許可するのか?」と不思議がった。
また、「ここの日系コロニアにいる日本人移民は東京五輪が最後の帰郷ぐらいの年齢なのに」と今回の変更による帰郷する在外日本人の減少を憂いた。
「なぜこんな理不尽なことをするのか分からない」=コチア青年花嫁移民 白旗諒子さん
コチア青年の花嫁移民としてブラジルに移住した白旗諒子さん(長野、73)は5~6年に一回のペースで日本に帰るそう。「毎回2週間ぐらい滞在して、日本に住む娘にも会って観光も楽しむ。JRパスはすごく便利なので、無くなると大変ね」と語った。
同じく親族に会い、北から南へ観光をするのが楽しみという新留静さん(鹿児島、79)は「是非今まで通り使わせて欲しい。無くなると本当に移動が大変、ただでさえ日本の駅や電車の仕組みは複雑なのに…」と顔をしかめた。
さらに「今までどれほどの日本人移民や他の日本国籍所有者がJRパスを使っていたか知らないし、色々な事情があると思う。でも、なぜこんな理不尽なことをするのか分からない」と感想を述べた。
“民間大使”を使い捨てか=JRは納得できる説明を
インターネットサイトで署名活動をする『JR(ジェイアール)海外在住者「ジャパン・レールパス」利用資格の変更の見直しを求めます!』、『ジャパン・レールパスを使い続けたい在外邦人の会』のページでも多くの在外日本人、日本人を家族に持つ海外在住の外国人などから困惑と怒りのコメントが集まっている。
ちなみに、『JR(ジェイアール)海外在住者「ジャパン・レールパス」利用資格の変更の見直しを求めます!』によると、集まった千人の署名を11月14日にJR各社に署名を送っている。
JR北海道・東・西・四国・九州から21、23日に返信が届いたが、全て同じ内容だったそうだ。また、11月15日に国土交通省にも署名を送ったそうだが、返事は無い。
同署名活動団体のページで公開されたJRグループの返信は本紙に送られた返事とほぼ同じだが、「JRパスがなぜ在外日本人にも販売されていたか」についての説明が加えられていた。
それによると、JRパスは昭和56(1981)年に発売を開始したが、当時は同パスの知名度が海外では低く、利用者が少なかったからだという。利用拡大を図るために、在外日本人にも利用資格を「特例として」許可してきたそうだ。
JRパス利用でどの程度の赤字が生まれ、それがJRの経営にどれだけ重荷になっているのか。はっきりした数字を発表し、在外日本人が「それなら仕方ない」と納得するような説明の仕方をしてほしいものだ。
「“民間大使”のような在外日本人」とは昨年11月24日付け本紙で掲載した野口博文さん(愛知、75)の言葉だが、在外日本人をJRパス普及や日本観光大使として利用し、充分に外国人観光客が集まったらあとは使い捨てるとの方針を印象づける返答だ。
日本から遠く離れた国に移住、日本の発展を誇らしく思い、応援しつつブラジルの成長を支えてきた日本人移民。日本文化や教育の普及もひと時も忘れずに、世界に冠たる親日国家になるようにブラジルに影響を与えてきた。JRパス停止は、そんな彼らが「帰郷が大きな楽しみだったのに…」と顔をしかめる報せとなった。
在外日本人はみな、2020年の五輪招へいに成功し観光者数増加を目指す日本を誇らしく思う人ばかり。そのような人々が今回の決定には眉をひそめ、悲しみの声を上げている。