日本の弁護士試験にあたる「OAB(ブラジル弁護士協会)統一試験」に、一発で合格した優秀な日本人がいる。元本紙記者の古杉征己さん(まさき、42、広島県三原市)だ。この第19回OAB試験にはサンパウロ市で3423人が受験し、合格したのは約4割の1369人。本紙を辞めてから苦節10年、仕事の傍ら夜に大学へ通って司法試験の勉強を重ね、遅咲きながら昨年末に卒業も無事に果たした。かつて法学部卒業者には自動的に弁護士資格が与えられたが、8年前から「OAB統一試験」の合格者のみになった。同試験開始後に弁護士になった、成人後移住の日本国籍者は、古杉さんが初めてとみられる。いよいよこの新年から「弁護士」として活躍する。
なぜ弁護士になるという困難な道を選んだのかと尋ねると、「日本で学んだことを活かせて、他の人がやらない分野だと、希少価値があって挑戦しがいもあるかなと思いました。でも、こんなに時間がかかるとは思いませんでした」と古杉さんは苦笑いした。
北海道大学法学部を卒業して2000年に渡伯した当初、本紙で記者として7年間働いた。彼が04年に書いた連載記事『教科書─時代を移して変遷』は日本で海外日系新聞放送協会賞の「キャンペーン・企画・連載部門賞」を受賞するなど、温和な人柄の中にも、忍耐強さと、秘かな鋭さを兼ね備えていた。
2006年6月に「ブラジルで弁護士になりたい」と一念発起し、日本での卒業資格を活かしてOAB試験を受けようと本紙を辞職。最初はマッケンジー大学の大学院の特別資格コースで2年間、労働法を専攻し、その間に日本の卒業資格の認定を受けようとした。
ところが多くの留学生が指摘する通り、当地のレバリダソン(外国大学の卒業資格認定)は「事実上、不可能」な制度だった。いくら交渉しても入手不可能な書類の提出を求められた。
そこで頭を切り替えて学部を一からやり直すことに。FMU法学部に入学して昨年末に5年間を修了した。「今ではやり直して良かったと思う。ブラジルの法律をゼロから勉強できたから」と前向きにとらえている。
学部の最終年にはOAB試験を受験する資格がもらえるので3月に一次試験、5月に二次試験を受け、見事一発で合格した。「結局試験前の大切な時期に、大学や予備校の授業以外に、1日5時間くらいは机について勉強できた」とガリ勉ぶりを発揮した。
一次試験は80門中、40問以上の正解を求められる選択式。二次試験は論述式を4問。もちろん文法も評価されるので、完璧なポ語が書ける必要がある。
合格が分かったのは昨年6月、12月に無事に最後の学部試験を終え、卒業となった。新年3月には大学から卒業証書が発行され、それからOABで弁護士登録手続きをする。
将来については「企業のコンプライアンスの仕事をやりたい」と期待に声を弾ませた。
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ポルトガル語の法律の文面はブラジルに2、30年住んでいても良く分からない。古杉征己さんに法律を勉強する難しさを聞くと「大変だったのは、文献の読解よりも実務の方。実際の案件について先生が説明を始めると、法律事務所ですでに研修している同級生はすぐに理解できた様ですが、僕はイメージできず苦労しました」。そこで落ちこぼれずに授業に付いていく努力が人並みではない。他には「同じような言葉でも意味が全然違うもの」、例えば「extradição」(犯罪人引き渡し)、「expulsão」(国外追放)、「deportação」(強制送還)のような似たような用語が結構あり、「法的概念の違いを理解するというのも大変でした」とのこと。日本語でも違いがよく分からないのに、ポ語で理解するのだからやっぱり大したもの。
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