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日本語とポルトガル語の遠さ

日本人がポルトガル語を勉強するのは、富士宮駅から富士山頂まで歩くようなもの?

日本人がポルトガル語を勉強するのは、富士宮駅から富士山頂まで歩くようなもの?

 コラム子の実家は静岡県沼津市にあり、朝に晩に霊峰富士を見ながら育った。体力自慢の父親からは、「若い頃は工場の勤務が終わった後に、夜9時頃から富士宮駅から徹夜で歩いて、朝までに富士山頂へ行った」という話を百回ぐらい聞かされた▼ふと調べてみると、富士宮駅から富士宮ルート五合目まで35キロもある。富士宮は標高124メートルで、五合目は2400メートルだから、延々と気の遠くなるような登り道だ。普通の登山者は五合目から歩いて5キロで頂上までいく。といってもその5キロの登りだけで5時間、下りで3時間かかる。それだけで普通は一日仕事だ▼そこで思ったのは、スペイン語やイタリア語などラテン語系話者がポ語を勉強するは、「富士登山」に譬えれば、五合目まで車で行ってから登るようなものだということだ。言語系統が全く違う日本語話者がポ語を習得するのは、富士宮駅から歩くぐらい遠い▼たとえば数年前、フランス人USP留学生と話していて、あまりにもポ語が流ちょうなのに驚き、「何年間ぐらいポ語を勉強しているのか」と尋ねたら、「半年。言葉が似ているから難しくない」と言われ、愕然としたことがある▼それを証明するような記事を最近見つけた。オンライン言語学習サイト「voxy」が、世界の主要23言語を、英語話者にとって学習が「簡単」「標準」「難しい」の3つのレベルに分類した調査内容だ(http://tabizine.jp/2017/01/03/112181/)▼英語話者にとって学習が一番【簡単】な言葉はスペイン語、ポルトガル語、フランス語、イタリア語、ルーマニア語、オランダ語、スウェーデン語、アフリカーンス語、ノルウェー語の9言語。習得に必要な学習時間の目安は23~24週間、授業時間にして575~600時間とある。つまり、集中して半年間勉強するだけでペラペラになる▼【標準】はヒンディー語、ロシア語、ベトナム語、トルコ語、ポーランド語、タイ語、セルビア語、ギリシャ語、ヘブライ語、フィンランド語の10言語。習得に必要な勉強時間は44週間、授業時間にして1110時間だから、「簡単」の倍。集中して約1年間だ▼【難しい】とされたのがアラビア語、中国語、日本語、韓国語の4言語だ。88週間、授業時間にして2200時間の学習が必要。「簡単」な言語の3・5倍、「標準」の2倍もかかる。つまり約2年間だ▼これを逆方向から見ると、日本語話者にとって興味深いことになる。日本人から見て「最も難しい言語」がポ語、スペイン語、イタリア語だ。別の言い方をすれば、ブラジル人が英語を勉強するのは、日本人より3・5倍も簡単! さらに言えば、ブラジル人がフランス語、イタリア語、スペイン語を勉強するのは、その英語よりさらに簡単!!!▼一方、日本語の場合は「お国言葉」もある。たとえば沖縄県人会の「ウチナーグチ弁論大会」に取材に行っても一言も理解できない…。これは日本語というより、すでに「沖縄語」だと痛感する。東北に旅行した際、地元の高齢者同士がしゃべっているのを聞いた時も、7割がた理解できなかった記憶がある。ポ語話者がスペイン語を聞いたら5割以上理解するというので、日本のお国言葉の方が遠い気がする。その分、日本の方言は「豊かな歴史と文化」を示している。もしかしたら欧州全体に匹敵するような言葉の豊かさが、あの狭い島国には詰まっているのかもしれない▼日本移民はブラジルを移住先に選んだ時点で、地理的な距離が地球上で最も遠いだけでなく、学習言語の“遠さ”も選択してしまった。そう書きながら「だからポ語が弱くても仕方ないんだ」と言い訳にしている自分を情けなく思った。(深)