パウリスタ大通り52番に今年5月オープンを控える文化広報施設「ジャパン・ハウス」の表玄関を飾る『檜のファサード(建物の正面)』がいよいよ完成を迎える。取付け作業のため、岐阜県中津川市加子母を拠点とする株式会社中島工務店から、飛騨の匠の技を持つ5人の職人が作業にあたっている。伝統と革新の融合により生み出されたファサードは、通行人の目をより一層惹きつける注目の的となりそうだ。
檜のファサードは、設計デザインを担当する隈研吾さんがイビラプエラ公園内の日本館を訪れたことがきっかけ。檜の匠の技術から着想を得て、修復工事を行う同工務店に工事が負託された。
幅36メートル、高さ11メートルのファサードには、木材を格子状に組上げる『地獄組み』という独自技術を採用。竹かごのようなインパクトのある見栄えが特徴だ。
これは釘や接着剤などを使わずに固定する特殊な伝統的な技法。普通なら木を組む場合、両方を半分ずつ切り欠いて組むが、地獄組の場合は2/3も切り欠く特徴がある。切り欠きが深いために一度組んだらばらすことが難しく、そのため「地獄」組と呼ばれる。
中島工務店は社寺建築の施工も行うが、今回のようなオブジェの施工は初。大きな構造物となるため、寸法の噛み合わせを微調整で行ない、日本で完全に仮組みして、問題点を洗い出してきた。白蟻対策のため防風防虫加工も施し、千枚以上の製材の中から630枚に厳選された。
そうして入念に準備された6トン以上の檜だったが、サントス港の税関ストで通関が大幅に遅延。本来なら昨年末までに完成予定だったが、作業は先月13日からようやく着手された。
約一カ月近く足止めをくらった職人5人の一人、中島浩紀さん(岐阜、53)は「最初はどうなることかと思った。待つしかなかった。いつでも取り掛かれるようにできる限りの準備をしていた」と職人気質を伺わせる。「今は完成した状態を見るのが楽しみ」と自信を覗かせる。
日曜と元旦を除いて突貫工事で組上げた。交通規制で夜中にしかクレーン車が持ち込めず、作業が深夜に及ぶ日も。「仮組みした資材と違うものだったり、足場の組替えにも手間がかかった」と苦労を語るが、完成目前とあって表情は明るい。「ファサードを通して、当地でも檜のよさを実感してもらえれば」。来週以降にファサードの上棟式が行なわれる予定。
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ジャパンハウスのファサードは、ひと際目を引くだけに、いたずらで若者がよじ登ったりすることも懸念されている。そのため、建物前には門や柵を設置して、そうした蛮行を防ぐ方針だそう。また、ファサードの下部の支柱には、強度が高いイペーの木が使われて補強されており、万が一登っても問題のないしっかりとした造りだとか。JHの背後にあるビルの側面には、オスカーニーマイヤーの巨大壁画(Kobra画)が描かれており、ちょうどその視線の先にファサードが位置する。ブラジルが誇る「モダニズム建設の父」が、日本人の作る「伝統と革新の融合」を図った檜のファサードを見守っているようで、なんともユニークな光景だ。
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これまでイビラプエラ公園の日本館を無償修復してきた岐阜県の中島工務店は、ジャパンハウス玄関の施工を請け負うなど、当地でもすっかりお馴染みに。文協でのコロニア行事にも出席して交流を深めた職人ら。よく見ると、はっぴには「飛騨の匠」とある。たまたま記者が岐阜県出身だったので、同社があるのは飛騨ではなく、県東部の中津川市だと気付き、「東濃の匠では」と訊いてみた。すると「木材加工技術の起源が飛騨にある」とか。たしかに「東濃の匠」と言われてもピンとこない。他県人であれば、なおのことだろう。やっぱり「飛騨の匠」という言葉は全国区、いや世界的?!