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ブラジル政治史にあたらなミステリー=テオリ判事の墜落死

 19日に連邦最高裁のテオリ・ザヴァスキ判事の搭乗した小型飛行機が墜落し、同判事ら5人が死亡した事件で、ブラジルは現在、大きな衝撃に包まれている。
 それはテオリ判事が、労働者党(PT)前政権(2003~16年5月)と現在のテメル政権を揺るがしている一大汚職、「ラヴァ・ジャット作戦」の一つの大きな局面になると見られていた、建設大手オデブレヒト社現・元幹部77人の報奨対供述(デラソン・プレミアーダ)の内容を2月には承認し、公表許可を与える予定だったからだ。それらのデラソンにはかねてから、これまでのブラジル汚職史に類を見ないほどの数の大物政治家たちの名前が含まれていると目されていた。
 そういうこともあり、国民の多くは「悪天候の中での墜落死」との見解を信じておらず、ネットなどでは「これは何者かによる陰謀だ」とする声がかなりあがっている。
 それらネットの声で最も見受けられるのは、過去にブラジル政治史の中で謎となって終わっていたミステリーだ。
 そのひとつが、大統領選たけなわの2014年8月に起こった、大統領候補エドゥアルド・カンポス氏の飛行機墜落事故死だ。当時のブラジル社会党(PSB)党首で、ルーラ大統領のPT政権時代に閣僚をつとめたこともある同氏は、「PTと民主社会党(PSDB)の二代政党時代を終わらせる」と宣言して立候補。
 しかし、大統領選まで1カ月半の8月12日に、リオ市からサンパウロ州サントス市へと向かった同氏搭乗の小型飛行機が墜落し、帰らぬ人となった。
 この墜落は「悪天候によって引き起こされた」とされ、事件性はなかったということで捜査はもう行われていない。だが、この飛行機についていた録音機(ボイス・レコーダー)のスイッチが切られており、墜落の際の模様が記録されていないなど、不審点は残っていた。
 そこに今回、テオリ氏が搭乗した小型機が、わずか2年半後に同じような墜落事故を起こしたことで、「あの墜落もやはり政治的な陰謀が絡んでいたのではないか」と疑う声が高くなっている。
 そして、もうひとつは、2001年10月と翌02年1月に、サンパウロ州カンピーナス市長のトニーニョ氏と同州サントアンドレ市長のセウソ・ダニエル氏の2人が相次いで謎の暗殺死を遂げたことだ。
 トニーニョ氏は自宅に帰るところを何者かに追跡され射殺された。ダニエル氏は友人との会食後に車で帰るところを誘拐され、車外に連れ出されたまま行方不明になり、2日後に遺体で発見された。
 2人共、その当時、市長を担当していた市の不正に立ち向かおうとしていた矢先にそれを拒む勢力から消されたと見られているが、2人はまた、共にPTの政治家だった。
 特にダニエル氏は、2002年に大統領初当選を目指したルーラ氏の選挙参謀長をつとめ、PT内では大事な人物として目されていたために社会的反響も大きかった。この事件では誘拐にたずさわった集団は逮捕され、実刑も受けたが、その全員が短期間のうちに殺害され、実は誘拐を指揮していたと疑われ、一度は逮捕された自動車の同乗者、通称ソンブラ氏も昨年、癌で他界した。
 この事件では、捜査の際、ダニエル氏の実弟が「この事件の背後にPTの陰謀がある」として3人のPT党員の名前をあげたが、裁判沙汰にならずに終わった。その3人はいずれも03年からのルーラ政権で出世した人物で、その内のひとり、元官房長官のジョゼ・ジルセウ氏は、連邦議会内での大型贈収賄工作「メンサロン事件」の主犯として後に実刑判決を受け、その後、ラヴァ・ジャット作戦でも実刑判決を受けている。
 このような経緯から、今回のテオリ氏の墜落でもPTを疑う声が目だっている。ラヴァ・ジャット作戦では、ルーラ氏自身が複数の収賄疑惑で既に被告となっており、大統領時代、そして退任後も蜜月状態がささやかれていたオデブレヒトが証言を行うことになったときも、その内容が注目されていた。
 そのルーラ氏は自身8年ぶりの大統領復帰を目指し、2018年の大統領選に出馬すると息巻く姿が最近、頻繁に報道されている。