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適材適所と刃物の研ぎと

 とある午後、「ブドウを頂いたから切り分けてくれる?」と頼まれた。鋏も置いてあると聞き、作業をしに行って、はたと考えた。置いてあったのは紙などを切る小型の鋏だったからだ▼この手の作業はお手の物の人が置いた道具だからと考えて作業を始めたが、茎が太くて切りあぐねるうちに、プラスチックの持ち手が壊れた。止むを得ずに別の鋏を探すも、周りにあるのは事務用のみ。大き目の鋏も壊れそうになったため、諦めて庭仕事用の鋏を買いに出た▼店員が野菜や果物収穫用と小枝なども切れる剪定鋏を見せてくれたため、迷わずに剪定鋏を買ってきたら、いとも簡単に切れる。用途にあった道具だと無理がないと感心した。この鋏でブドウと容器を切り分けていた時思い浮かんだのは、「適材適所」とか「大は小を兼ねる」といった格言や、切れ味が落ちた包丁でカボチャを切ろうとして刃が滑り、大怪我をした人の話だ▼鋏の歯は包丁より厚く、角度が鈍い。だが、それでも切れ味は落ちるし、研ぎも必要になる。新しい鋏を見て、今は快調な鋏もいつかは研ぎが必要になるのかと考えた時、仕事の上での切れ味を保つ必要にも思いが至った▼何をどんな視点で選び、どんな表現で伝えるかは一人一人で違う。だが、より広い視点で選んだ題材を噛み砕いた表現で伝えるには、それなりの大きさや切れ味を持った刃物で材料を切り取り、切り刻む必要がある。感性や知識、認識等を研ぎ澄ますには周囲の人の助けも必要だ。だが、砥石で削られて本体が小さくなっては仕方がない。皆が良い仕事をするには、互いが研ぎ澄ましあい、切れ味を保つと共に、厚みや大きさを増す事が不可欠だ。(み)