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JICA=日系社会ボランティア30周年=リレーエッセイでたどる絆=第13回=日本で「言葉の壁」体験活かす

前列右端が山根さん

前列右端が山根さん

 念願だったJICAボランティアに合格!!――合格通知を受け取った2014年11月8日のことは今でも鮮明に覚えています。
 「海外で生活したことがある人」が輝いて見え、「私も海外で生活してみたい!」という思いを大学生の頃から抱いていました。JICAの現職教員特別参加制度を以前から知っていたので、その夢が叶ったあの日は「信じて走り続ければ夢は叶う」ということを身をもって体験できた瞬間でした。
 派遣希望国を選ぶにあたって、当初はアフリカへの派遣を希望していましたが、小学校教諭として勤務する中で外国籍児童が言葉の壁に直面している姿を目の当たりにしました。家では母国の言葉を話し、学校では日本語を話す。
 どっちつかずの状況がダブルリミテッド(セミリンガル)を生み出し、なかなか学校に馴染むことができずに寂しそうにしている児童の姿を見て「もし私が母国の言葉を話して助けることができたら」と考えました。
 私の住む地域は外国人集住都市に指定されており、多くの在日ブラジル人が住んでいます。そのため「ポルトガル語を話すことができるようになる」ことと、「海外で生活する夢が叶う」ことからブラジルへの派遣を希望し、サンパウロ市マルピアラ学園への派遣が決まりました。
 派遣されてから今までの1年4カ月、自分が抱いていたJICAボランティアの理想と現実に戸惑い、ブラジルでの生活は楽しいことよりも悩むことの方が多かったように思います。
 自分の力を発揮してブラジルの発展に貢献するために来たつもりが、そこにいたのは「何もできない」自分でした。言葉が通じないので、先生や生徒とうまくコミュニケーションがとれませんでした。「~した方がいいのになぁ」と思っても、周りの先生に比べて若輩者の私が意見をすることで、関係が悪くなってしまうのではないかと怖くて、学校の中で自分一人で過ごす時間の方が多い日が続きました。
 同期ボランティアが積極的に活動する姿や活動の幅を広げていく姿を見て、自分の情けなさを感じることもありましたが、そんな日々を救ってくれたのもまた同じ同期のボランティア33人であり、JICAスタッフの皆さんでした。
 お互いの悩みを共有し、アドバイスをもらったり、与えたりして、今はマルピアラ学園で充実した日々を送ることができています。
 言葉の壁に戸惑う児童を助けたいと思って参加したJICAボランティアですが、私自身が言葉の壁に直面する辛さ、大変さを知り、助けてもらうことのありがたさや喜びを、身をもって学べたことが、このブラジルでの生活の一番の宝です。
 活動は残り2カ月となりました。一つの後悔も残さないよう1日1日を大切に笑顔で帰国の日を迎えたいと思います。


山根 孝仁(やまね・たかひと)

【略歴】滋賀県出身。27歳。滋賀県の小学校で学級担任を4年間経験した後、2015年からサンパウロ市マルピアラ学園(Colegio Marupiara)に派遣中。2015年7月から2017年3月まで1年9ヵ月の派遣。2017年4月から小学校に復職予定。