世界3拠点でオープンする文化広報施設「ジャパン・ハウス(以下、JH)」の総合プロデューサーである原研哉さんが、ロンドン、ロサンゼルスに先駆けて5月にオープンを控えるサンパウロ市JHを視察して会見を開いて「期待通りのものができている」と語った。開館を前に、その一部が明らかになってきた。
「無印良品」ボードメンバー(取締役会)に参加するなど、幅広い領域のデザイン・プロジェクトにおいて新時代を先導してきた原さん。戦後日本は、「かつての伝統を忘れ、まるで工場のようだった」と語り、今後は「最先端技術と伝統を融合させた国造りを目指す。その姿をご覧頂きたい」と胸の内を語る。
「日本の美意識や考え方は、繊細で奥深く説明しづらいもの。ゆえに象徴的な分かり易いものを見せる傾向がある」と指摘する。だが「それでは表層的理解で終わってしまう。(本当の考え方を理解するには)時間がかかるが、分かったときの衝撃は遥かに強い」する。そんな「日本文化の奥行き」を分かってもらうことが、JHの企画思想にはあるようだ。
政府初の文化広報施設のプロデュースとあって「まだまだ知らない日本もある」との苦悩をほのめかしつつも、「欧米の近代合理性とは異なる日本独特の価値観。それを資源として、未来的に新しい文化を築いていければ」と目を輝かせる。
5月の開館記念企画はマルセロ・ダンタス企画局長による『竹』特別展示だ。竹取物語の古代から現代の彫刻的工芸へと発展させてきた悠久の流れを体感できそうだ。
開館に合わせて、世界的フラワーアーティスト(花を使った芸術家)東信さんによるサンパウロ美術館(MASP)での展示会や、世界的に有名な大物音楽家がイビラプエラ公園で演奏会を行うことが検討されている。
世界3拠点を巡回する展示会についても明らかとなった。公募による選考の結果、ロボットのデザインも手がけることで有名な東京大学生産技術研究所の山中俊治研究室が企画した「Prototyping in Tokyo」展や、株式会社竹尾による紙の展示、TOTOギャラリー「間」による「藤本壮介展 未来の未来」などが第1段として2、3カ月毎に巡回する予定だ。
「『税金の無駄使いでは』という批判もあるかも知れないが、本当にそんなプロジェクトだったら関るのは真っ平御免」と切り捨てる。「みなが才能を惜しみなく発揮し、オール・ジャパンでやっている。伝えるべきものをきちんと伝えてゆく」と力強く語った。
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世界3拠点で開設されるJHだが、ロンドン、ロサンゼルスでは、許認可の手続きが煩雑で、建設に遅れが出ているという。オープンの具体的な時期は明言されなかったが、「17年内にオープンを目指す」という。世界の金融情報が交錯するロンドン、米国西海岸でITを先導するロサンゼルス、そして中南米の拠点であり、最大の日系社会を抱えるサンパウロ。原さんは、それぞれの視点から「興味を持ってもらえれば」と期待する。各館の「独自企画」も、どんなものが展開されるのか、みどころだ。