大津波がやって来る―。ラヴァ・ジャット作戦のオデブレヒト社(O社)幹部司法取引証言の津波が、もうじきブラジリア政界を襲う。それに備えて、テメル大統領は防波堤を築いている。「防波堤」とは「法的免責」(foro privilegiado、以下FP)のことだ。公的権力の中心にあるものは国家安定を最優先するために、その役職にいる間は刑法・民法による責任追及を逃れられるという特権だ▼連邦政府の閣僚はFP特権があるので、大波の震源地であるクリチーバ連邦地裁のモーロ判事の手が届かなくなる。津波が来ても、防波堤の中に入れば生き残れるが、外に残されれば流される。汚職政治家にとっては生きるか死ぬかの瀬戸際だ。怪しい政治家ほど要職に就きたがる▼クーニャが下院議長に就任したのがFP特権をえるためであったことは、昨年中のふてぶてしいやり取りで痛感した。だから下院議長を辞めさせられた途端、急坂を転げ落ちるように逮捕され、今では医療刑務所だ▼昨年末にレナン上院議長もあやうく議長職を剥奪されそうになったが、命がけで抵抗し、間一髪で生き残った。おかげで後継者を上院議長につけ、今年に入って「逆襲」に出ている。クーニャとレナンでは、まさに紙一重の差で天国と地獄を分けた▼FP特権は88年憲法で取り入れられ、かなり適用範囲が広い。各州政府要人、連邦議会要職、司法界の主要役職にもある。ある推計によれば、FP特権を持つものは2万2千人もおり、世界標準からしてブラジルは異常に多いと指摘する専門家もいる。FP特権者が刑法上の罪を問われた場合、最高裁扱いとなる。問題なのは「最高裁扱いだと数年単位で時間がかかり、任期中に逮捕されない」という現実だ▼O社幹部司法取引の証言で34回も名前が出てきているモレイラ氏を、FP特権のある大統領事務局長に就任させた件で、テメル大統領が「彼がLJ作戦で被告になるまでは辞任させない」と明言した。これは昨年よりも明らかにLJ作戦に対して強気に出ている態度だ▼政治評論家のケネディ・アレンカール氏はブログで、昨年5月にテメル暫定政権が発足したときと比較した。トランスペトロ社のマッシャード元総裁が司法取引証言として、ジュッカ企画相(当時)らが「LJ作戦による流血を止める」と極秘に相談している録音を明らかにした。ジュッカ企画相はその録音だけで辞職。アレンカール氏は《その件に関して最高裁から捜査開始許可が出たのが、つい先週、9カ月後だ》と指摘▼これから検察庁の捜査が開始されて起訴に、最高裁が受理すればようやく「被告」だ。テメルが今回出した基準からすれば、ジュッカは今の時点ですら辞任する必要はない▼これからO社司法取引証言が洪水のように出てきても「被告」になるまで閣僚でいられる。テメルの先の発言は、年金改革法案や労働法改革法案、経済振興策を可決するまで、いまの陣容で行くと宣言したのに等しい。来年10月の選挙までに経済上向き感を出すためには、LJ作戦の津波を受けて政局混乱している時間はない、強行突破する覚悟のようだ▼テメル暫定政権になってから株は上がり、史上最高値近くまで。世界中がドル高にふれるなか、ブラジルだけはレアル高という異例の動き。これはマーケットが、テメル政権が早期に景気回復させるとの推測を織り込んだ結果、国際投資資本が流れ込んでいるせいと思われる▼最高裁の審議のペースを考えれば、O社司法取引証言を検察庁が3月に捜査申請しても、許可されるのに数カ月、裏づけ捜査後に起訴、それが受理されて「被告」になるには1年以上かかっても不思議はない。そうなると「逆襲」をとめられるのは「街の声」だけだ▼マーケットは経済回復を最優先したいかもしれないが、国民はLJ作戦の速やかな遂行を願い、政局混乱が起きても当然と身構えている。テメルは「街の声」を聞く気があるのか。次の大規模抗議行動は3月26日(日)で「LJ作戦を応援」「PF特権廃止」などが主題だ。最高裁に期待できないなら、来年の選挙で疑惑議員を落とすしかない。最後は「国民の大津波」がものを言うか。(深)