26日のパウリスタ大通りで、「今回で14回目のデモ召集だ」とVPR(VemPraRua、街に出よう)のロジェリオ・シェケル代表が、街宣車の上から叫んでいたのを聞き、年3、4回の一般市民デモという「ブラジル式民主主義」が根付いたのを痛感した。コンフェデ杯中の2013年6月以来、この国の民主主義は姿を変えた▼法的特権廃止、ラヴァ・ジャット作戦応援、リスタ・フェッシャーダ(比例代表制)反対、銃規制反対などが主題だが、理解が難しい抽象的なテーマばかり。昨年までのような「分かりやすい敵」ジウマ、クーニャが落ちて、標的が居なくなり、デモが勢いを失った。唯一残ったのが、来年も立候補を画策するルーラ。テメルは温存して経済回復を進めさせ、PTの支持基盤である「組合」組織の弱体化を意図したテルセイリザソン(派遣法)制定、労働法改正などの各種改革を優先する意図があるのか▼今までのデモ中で最も小規模であり、「アイドリング状態」だ。同日にサッカー伝統戦、サンパウロ市最大のロック音楽イベントが開催中だった関係か、若者が少なく、国のことを真剣に考える真面目な層、とくに高齢の白人、中でも女性の姿が多いのが目についた。出足も遅く午後3時ではガラガラ、午後5時にそれなりの人数になった▼今回初めて街宣車を出して呼びかけをした有名法律家ルイス・フラビオ・ゴメス氏は「テメル外れろ! ルーラ外れろ! アエシオ外れろ! 全ての汚職政治家をはじき出せ。来年の選挙はVoto Faxina(汚職一掃投票)を!」と今から熱心に語りかけていた▼VPR街宣車上でジウマ罷免請求の著者の一人ミゲル・レアレ・ジュニオル氏が、「賄賂が選挙資金に使われたと告発されると、政治家は皆『それは選挙高等裁判所(TSE)に登録された合法的なもの』と言い訳する。これはTSEを使って『資金洗浄』しているに過ぎない。TSEを犯罪に使うなど許されない。こんな悪行に対し、国民が黙っていてはだめだ!」と激烈な口調で演説すると大きな拍手が湧いた▼AB(Acorda Brasil、目覚めよブラジル)街宣車は路上にマイクを置き、街の意見を拾った。例えば「今日はテレビ・カメラがほとんどいない。空には取材ヘリコプターもいない。マスメディアは買収されたか?」と痛烈な声が出ると、街宣車からは「我々のメディアは新聞やテレビじゃない。インターネットのフェイスブックなどのSNSだ。今の様子をどんどん投稿してくれ」と呼びかけた。米国と同じく、マスメディアは必ずしも見方ではない▼MBL(Movimento Brasil Livre、自由ブラジル運動)のカタギリ・キム(日系と韓国系の子孫)の演説は思いのほか面白かった。新聞では「極端」「思い付きで行動しがち」と批判される二十歳過ぎの若者だが、実際に演説を聞くとファンが多いのが分かる。いわく「カイシャ2(隠し口座)への恩赦は絶対に許さない。リスタ・フェッシャーダの当選順位リストを作るのは各政党の牢名主だ。悪い奴ほど当選確実な上位にくるから絶対反対。税金を悪徳政治家にまわす政党助成金にも反対。組合税(インポスト・シンジカル)はルーラの仲間を養うだけ。絶対に廃止すべき。プロの組合員は国全体のことなど考えていない」と訴えると喝采が上がった▼MBLから昨年当選したフェルナンド・オリダイサンパウロ市市議は「市議会に初出席した時、PT議員が演壇から何て演説したか知っているか。『ルーラを党首にして、来年はゴウペ(クーデター)に反撃する』だと。今度は俺が演壇に立って何て言い返したか分かるか。『ルーラの居場所は刑務所』だ」▼別のMBL活動家も「PT市長の時に某局長から訴えられた。とんでもない金額さ。奴らはそうやって俺たちを脅して黙らせようとする。でも絶対に黙らない」と叫んだ。MBLには若者らしい激しさが溢れている▼今回は人数が少ないだけに、ゆっくりと主張を聴け、デモを楽しみたい人には良い雰囲気だった。今までになく日系人が多かったのも心強かった。(深)