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圧巻のブラジル=強く美しく南米を席巻=6度目の優勝果たし、伝説となるのか

70メートルドリブルし、最後は3人に囲まれながらゴールを決めたネイマール(Paulo Pinto/Fotos Públicas)

70メートルドリブルし、最後は3人に囲まれながらゴールを決めたネイマール(Paulo Pinto/Fotos Públicas)

 ブラジル代表が3月28日のパラグアイ戦に勝利し、世界一番乗りでロシア・ワールドカップ出場を確定させた。
 この試合の前までワールドカップ予選7連勝を記録しており、アルゼンチンやウルグアイにも3点差をつけて勝利していたブラジルは、ホームでのパラグアイ戦でも連勝の勢いそのままに、相手チームに襲い掛かった。
 元々守りの堅さには定評のあるパラグアイは、何とか引き分けて勝ち点1を持ち帰ろうと粘ったが、それも33分しか持たなかった。右サイドからドリブルで切れ込んだコウチーニョが、ゴール前まで上がっていた、ボランチのパウリーニョへ縦パス。パウリーニョがヒールで戻すと、シンプルなパス&ゴーでディフェンスを置き去りにしたコウチーニョが、ダイレクトでゴール左スミに流し込んだ。
 1点差ならまだ射程圏内と、パラグアイは傷口を広げずに耐えしのぎ、後半残り15分勝負の目論見だったが、絶好調のネイマールがそれを許さなかった。後半早々に自ら得たPKを失敗したネイマールだったが、18分には自陣深くからドリブルを開始。2人を置き去りにすると、最後は3人に囲まれながらもゴールを決めて2―0。70メートル超の独走だった。
 試合終了間際には、芸術的なパス交換でパラグアイディフェンスを翻弄した後、超攻撃的左サイドバックのマルセロがキーパーの頭上を越すシュートでダメ押し。アシストはまたも、パウリーニョのヒールキックだった。
 驚くべきはチーム全体の攻撃姿勢だ、キーパーと一対一だったマルセロには、レナト・アウグストへパスという選択肢も残っていた。「2―0で勝っていて、試合終了間際、左サイドバックとボランチが、ネイマールより前にいるなんて!」と解説者も絶賛の攻撃的姿勢だった。
 「サッカーはリアリズムの戦い。点が沢山入り、娯楽的な試合なんて絵空事だ。ましてやワールドカップ予選は1点を争ってジリジリとした我慢比べがつきもの。むしろ、そうした駆け引きこそ面白い」と信じていた記者は、そんな小難しい理屈などなく、ひたすらに見ていて楽しい、愉快な試合にスタンドで呆然としていた。
 今のブラジルは、サッカーの常識、ワールドカップ予選の常識から逸脱している。
 通常は、スペースの空いているところを攻め、ノーマークの選手を探してパスをするが、ブラジルは狭いところを攻め、相手側のマークがついている選手にさえパスを出して、それでも突破してしまう。守備側は通常、「ここは守れている。だから敵は空いている逆サイドを狙ってくるはず」と、ある程度攻撃側の動きを予測しながらプレーするが、それが全く無視され、さらに簡単に突破されてしまうのだから、始末に終えない。
 また、絶好調のネイマールは、パラグアイ戦のように自陣深め、むしろ自軍ペナルティーエリアが近いところからのドリブルで独走ゴールを決めてしまうから、通常はセンターラインから10メートルほど敵ゴールに近づいた地点に定められる、守備の開始ゾーンが意味をなさない。ネイマールがドリブルを開始した地点まで守備ゾーンに定めたら、前線で守る選手の負担が大きすぎ、早々にスタミナ切れを起こすのが関の山だ。
 またブラジルは、「ワールドカップ南米予選は過酷だから、ホームでは勝利を狙い、アウェイでは慎重に戦って引き分けもOK」という常識にも全く従わない。
 例えば、パラグアイ戦の5日前のウルグアイ戦は、「予選2位の難敵、しかもアウェイ、引き分けでもOK」との声が自国メディアからも出たが、守備を固める戦い方を選択しなかった。前半9分にPKで失点し、チッチが監督に就任して以来、初めて先制を許したものの、ビハインドの状況は9分も続かなかった。全く動じずにボールを支配し、すぐさま同点にすると、その後も奔放に攻め続け、終わってみれば4―1の大勝だった。
 ブラジルはワールドカップで5回も優勝しているが、不思議なことに最近2回の優勝、1994年、2002年の事が振り返って語られ、OB選手がもてはやされる事は少ない。
 むしろ未だに懐かしく語られ、ドキュメント番組が作られるのは、ジーコを中心に戦ったが、優勝を逃した1982年、1986年の世代だ。「美しいサッカーは80年代で終わってしまった。それ以降のサッカーは守備的で、優勝しても喜べない」と語る国民も未だに多い中、今のブラジル代表は久々に、結果も、魅力的なプレーも両立していて、来年ロシアの地で優勝すれば、1970年のペレ世代のように、伝説のチームになる可能性を持っている。(規)