「ジウマ/テメルのシャッパ」(以後、D/T組)選挙違反裁判の開始が4日、無期限延長となった。これを巡って「テメル大統領の失格判断の可能性が遠のいた」との見方が強まっている。「急いで裁判が進めばテメルにとって不利」、もしくは「裁判が遅れればテメルは任期を全うしやすくなる」という解釈だ▼3日までのマスコミの論調は、「今週中に判決まで持ち込まれるか」という切羽詰まったものだった。ところが選挙高等裁判所(TSE)で審議が始まった途端、ジウマ側から「弁護のための証人を増やしたい」との申し立てがあった。報告官のベンジャミン判事は当初、反対だったにも関わらず、他の判事らとの議論の末、全員一致で申し立てを受け入れた▼D/T組裁判の注意点は、ジウマ対テメルという構図だ。ジウマにしてみれば、テメルは裏切り者であり、自分の「政治生命剥奪」を犠牲にしてまで、テメルを共に地獄に引きずり込みたい。テメルを同罪にできれば、その分だけ、来年の大統領選挙ではPT候補のルーラが有利になる。その戦略にそってジウマが「捨て石」になる可能性は捨てきれない▼というのも、ジウマ側が証人として加えたのが、マンテガ元財相、自分の選挙参謀ジョアン・サンタナとモニカ・モウラ両容疑者らだからだ。参謀ゆえに選挙の裏表に通じており、彼らが証言する「ジウマがオデブレヒトから外国の隠し口座で賄賂を受け取っていた」との内容がラヴァ・ジャット作戦で捜査されている。だが、その裏金がD/T組として使われたと証言・証明されれば、テメルも同罪になる可能性は高い。そうなら「肉を切らせて骨を断つ」戦略と言えなくもない▼とはいえ「裁判延期」に関して、その晩のジョルナル・ダ・クルツーラでジャーナリストのジュッカ・キフリは「マルメラーダ(談合)だ!」と切り捨てた。つまり「判事らは切迫した振りをしていただけで、実は最初からそのような打ち合わせがあったのでは」と疑問を呈した▼TSEでD/T組が資格剥奪されたところで、テメルは最高裁に上告すると前々から宣言している。そこには、右腕だったアレキシャンドレ・モラエス判事が送り込まれており、〝政権親派〟との批判が強いジルマル・メンデス判事、昨年末からの動きをみると明らかにテメルとツーカーのルシア長官らがいる。TSEで剥奪されても、最高裁では審議に時間がかかり、「任期を全うできる」と確信している様子だ▼万が一、テメルが任期中に最高裁で大統領資格剥奪になっても、連邦議会内で間接選挙(投票できるのは連邦議員のみ)が行われ、現政権側の「誰か」が選ばれるだけ。つまり、テメルの後継者だ。PMDB的には、鉄壁の布陣が張られている▼PSDBの長老FHCも懸命に「いまテメルが大統領失格になれば国が傾く」などと援護射撃の発言を繰り返している。だいたいD/T組裁判を訴えたのはPSDB党首アエシオだから、今頃後悔しているに違いない。その当時は、まさかジウマが罷免され、PMDB/PSDB政権が生まれているとは想像していなかった▼現在の政界中枢には、政治家が積極的に取り組みたくない課題、得票に繋がらない〝苦い薬〟「年金改革」「労働法改正」「組合税廃止」をテメルにやらせたい―との意図がある印象を受ける。いずれ年金改革をしないと破たんすることは、誰の目に明らか。その最大の原因は公務員年金であり、公務員が強力な影響力を政界に行使できる源泉は組合だ。組合を弱めるには、派遣法や労働法の改正しかない。「やらなければいけないが、誰も取り組みたくない政策を遂行させる代わりに、任期を全うさせる」という裏取引が政界/司法界の中枢にはあるのかも▼ジウマと違い、テメルは水面下での根回しがうまい。議会、最高裁との関係も良好だ。となれば「来年選挙で大統領の座をPSDBに禅譲し、その後に最高裁判決で失格」―との落としドコロも考えられる。そこに向けて司法もズルズルと審理を延ばすという協力体制に入った―との符合が、今回の「ジウマ側の申し入れの受け入れ」かも。まあ、1年後の政局は誰にも予想できないが…。(深)