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大陸の真ん中にあるブラジリアを襲う「大津波」

11日午後4時、サイトに掲載されたエスタード紙の独占スクープ

11日午後4時、サイトに掲載されたエスタード紙の独占スクープ

ついに「大津波」がブラジリアを襲った――。4月11日午後4時、エスタード紙サイトに、オデブレヒト社幹部の司法取引証言に基づく連邦検察庁のジャノー長官からの捜査要請に対し、ファッキン最高裁判事が約百人分の捜査開始の許可を出したリストがすっぱ抜かれた。「ファッキンのリスト(A lista de Fachin、以下Fリスト)」だ▼昨年末のオデブレヒト社幹部の司法取引承認を受けて、年始から「くるぞ、くるぞ」とささやかれてきた大津波。その衝撃を和らげるために、テメル大統領は側近的な人物を閣僚に重用し、「法的特権」(foro privilegiado)という防壁の中に守ろうとしていた。準備していたにも関わらず、ショックの大きさに首都政界は騒然となった▼その結果、「年金改革」「労働法近代化」というテメル政権の2大最重要案件が審議されている真っ最中にも関わらず、翌12日の連邦議会は閑古鳥が鳴く状態に。政治家たちは浮足立った▼無理もない。1985年の民政化以降の7大統領のうち5人の名前が「捜査対象」か「嫌疑のある人物」に上がっている。両院議長をはじめ、上院の3分の1、28人の閣僚のうち8人が捜査対象だ。テメルに嫌疑はあるが「大統領が問われるのは、任期中の犯罪のみ」との特権があり、容疑が就任前なので外されている▼3月半ば、西森ルイス下議と話したおり、「年金改革と労働法改正はいつ頃までに議会を通す予定なんですか? 6月とか」と伯字メディアの情報を追認しようと尋ねると、「いや、政府は4月には通そうとしている」と教えてくれた。その時は、なぜそんなに急いでいるのかと疑問に思った。だが、Fリストが発表される前に通そうと急いでいたのだと、今回納得した▼おそらくテメルと司法界の一部の裏段取りとしては、まず連邦議会で2大案件を通過させた後、Fリストを公表するつもりだったのかも。だがエスタードがすっぱ抜いた。司法界の誰かが、それを漏えいしたわけだ▼ファッキン判事も支持する法的特権廃止をめぐる司法界の動きに反発して、上院では3月29日に、それが廃止されても連邦議員を起訴しづらくする権威者誹謗防止法(lei sobre abuso de autoridade)の改正を進めようとしていた▼同時に2月から下院では、骨抜きした汚職防止法案(pacote anticorrupção)を再び押し通そうとする動きが活発化するなど、LJ作戦に対する議会側の逆襲が強まっていた。2大案件を承認する前に、そんな「逆襲法案」を通す暗黙の取引がテメルと議会にはあったのかもしれない。そんな政権と両院に対する司法界からの不信感が高まった結果、正式なFリスト公開ではなく、リークという形で発表された可能性が考えられる▼これで2大案件の成立に混乱は避けられない。だが「経済回復は遠のいた」に着目するのでなく、「政界浄化に大きく前進」と前向きにとらえたい▼とはいえ、今回は「捜査開始が許可された」だけだ。これから検察庁が捜査を実際に進め、立件に足る十分な証拠があつまった案件だけを起訴し、最高裁が受理したものだけが裁判となり、その段階で政治家は「被告」となる▼メンサロン裁判では8年がかりで38人が裁かれたが、今回は100人前後と2倍以上。単純計算すれば、判決が出るまでには16年以上。テメルは「被告になったら閣僚を辞めさせる」と言っているが、来年の選挙時に、そこまで行っている政治家が何人いるか…、はなはだ心もとない▼オデブレヒト社創業社長のエミリオ氏が司法取引証言で「政治家の汚職は一種の『制度』だ。30年前から同じことをやってきた」と語る映像が公開されたのを見て、やはりこれは「汚職という文化」だと確信した。この先、何年も国民はラヴァ・ジャット作戦を支持し続ける必要がある。本当の司法の闘いはこれからだ。(深)