サンパウロ州の聖南西地区の日本語教育は全伯で一番勢いがあると思っていたので、8日の「日本語学校運営改革を進める会」を取材してショックを受けた。あの聖南西ですら26年間で生徒が17%まで激減したのであれば、他の地区はさぞや厳しいだろう―と背筋が寒くなった▼ただし、疑問もわいた。というのは国際交流基金が実施する「海外日本語教育機関調査」では、2009年のブラジルの学習者数は2万1376人、12年度には確かに1万9913人へと減った。ところが15年度には2万2993人に増えていたからだ。その流れで「聖南西も増えているかも」と思っていたところを、金槌で殴られたような衝撃を受けた▼渡辺久洋会長(聖南西教育研究会)にこの疑問をぶつけると「増えているのは大学、公教育で、コロニアの継承日本語は減っている」とのこと。つまり、日系子弟向けのものは激減し、アニメ好きなブラジル人青年や成人向けのものはグングン伸びている▼聖南西の会議中では「日本語学校の生徒から将来の文協役員が生まれる。日本語学校がダメになれば文協の将来も危うい」という危機感が繰り返し語られた。確かにそうだ▼都市部では、日本語を一外国語として教える語学学校的なやり方が増えていると聞く。都市部にあるソロカバ文協の日本語学校の生徒は90人まで増えている。やはり半分以上は非日系の青年や大人で、学習動機の多くが「漫画アニメが好き」「日系企業に就職したい」というもの。この種の学校は生徒が増え、農村部にある文協付属型の学校が減る傾向にある。コロニア型の学校では日系子弟向けに挨拶やしつけ、日本の行事や歴史を含めて、日本文化まるごとを教える継承日本語が多い▼継承日本語側も敷居を低くし、裾野を広げる必要がある。それには文協自体が変わっていく必要がある。文協と日本語学校が一体になって改革していくダイナミックさが必要だ▼会館を徐々に、日系人だけが集まる場所ではなく、日本文化が好きな人が集まる場所「日本文化クラブ」化していく方向性だ。文協が主催してアニメ漫画イベントや、ソロバン、柔道、茶道、華道、日本舞踊、折り紙、カルタ、日本料理などを教える教室を開いて、日本文化に関心のあるブラジル人や若者を呼び寄せる。当然、その動きは二世役員が中心になる▼集まった人の中には「さらに深く日本文化を学びたい」と思う層が数%いる。そんな人に日本語教室へと進んでもらう。文協自体が一般社会に向かって日本文化情報を発信していく拠点になるのだ▼日々の取材の中で、200万信者を持つ巨大教団「生長の家ブラジル伝道本部」の幹部と話をする機会がある。信者の9割はブラジル人、中堅幹部の多くもブラジル人だが、主要な上層部はみな日本語を話す日系人であることに感心する。中心にはしっかりと日本とつながった日系人という軸があって、9割のブラジル人信者を束ねている。そしてブラジル人の悩み事を日本的な考え方で解決しながら信者を増やしてきた▼それを参考に、継承日本語を辞めるのではなく、それを軸にして、裾野としての非日系向けの部分を広げていくのだ。従来の継承日本語や、文協の中の日系人同士の親睦の役割は、コミュニティ部門のような形で「住み分け」して続ける。それが核になるからだ。だが非日系人向けの部門を作って、そこの活動を増やして文協の収益につなげていく▼非日系が勉強する姿をみて、今まで見向きもしなかった二、三世もやって来るだろう。日本文化に親しみを感じるブラジル人が増えることを否定する理由は何もない。サンパウロ市から日本文化の先生を地方に派遣する支援態勢も必要だ。日本政府筋も積極的に協力し、日本から講師に来てもらっても良い。いわば「地方版ジャパンハウスの機能を持つ」ことが、地方文協と日本語学校の生き残り策かもしれない。(深)