4月28日(金)朝、ゼネストを勝ち誇るように「サルネイ政権時にインフレ激増へ抗議した1980年代以来の大型ゼネスト」との仰々しい文字がならぶメールが、左派組合広報から送られてきた。かと思えば、反PT系言論人はテレビやフェイスブックで、「ストの名を借りた暴力沙汰。あれはストではなく、プロテスト(抗議行動)だ」「一部の組合が参加しているだけ。あくまでCUTらが自称する〝ゼネスト〟。本物のゼネストは欧州でやっている全部が止まる本格的なもの」など過小評価するコメントをならべていた▼どちらも一理あるが、共に極端な感じがする。この種の出来事のたびに「奴隷の呪い」という言葉を思い出す。たとえば日本には「島国根性」という言葉があり、地理的環境に加えて人為的に「鎖国」までした歴史が、いまの国民性を形作っている。ブラジルの場合、奴隷制度が長く残っていたことで、その裏返しとして「奴隷の呪い」のように過剰に労働者の権利を保護する国民性が生まれたのではないか―という気がする▼ハイチは1791年に奴隷制廃止、アルゼンチンは1813年、チリは1823年、ペルーは1851年、米国は1863年にリンカンが奴隷解放宣言をした。ブラジルが奴隷制を廃止したのは1888年。来年でやっと130年だ。アメリカ大陸で最後まで奴隷制度を残した国だけに、その歪みが社会の様々なところに今でも残っている▼労働者の権利を過剰なまで守ろうとする国民の権利意識や法体系は、基本的人権に反した奴隷制度が残っていた反動ではないか。ブラジルの労働法(CLT)は、イタリアのを移植する形で1943年に制定された。つまり革命的サンディカリスム(急進組合主義)の影響を色濃くうけたムッソリーニの時代だ。当時、独裁体制を敷いていたヴァルガス大統領は、ファシズムに強く共鳴していた。その名残だ▼この労働法の特色の一つが「組合税contribuição (imposto) sindical」だ。労働者から組合費を国が税金として徴収し、組合に再分配する制度だ。昨年だけで35億レアルもの金額が強制的に源泉徴収され、組合に渡された。組合を作って労働省に登録すれば、その分け前に預かれるわけだ▼16年10月26日付VEJA誌によれば、ブラジルには1万6293組合も存在し、この数は米国(約130団体)の125倍に相当する。2005年には約1万3千組合だったから、PT政権中だけで実に約3400組合も新しく誕生した。毎年280以上だ! それが政治団体となり、今回のようなストを支えている▼28日のゼネストの中心であるCUT(中央統一労組)らは「年金制度と労働法の改悪反対」を主題として唱えているが、多くの反PT系言論人は「本当の目的は組合税廃止を阻止すること」と見ている。というのも、ゼネストの2日前、下院本会議では労働法改正案が296対177で承認され、「組合税の支払いを義務でなくす」ことを承認したからだ。組合税の支払いが任意になれば、PT政権以降、雨後のタケノコのように生まれた組合の多くは力を失う▼実はコラム子は数年前、事情を良く知らないまま、ジャーナリスト組合に行ったことがある。給与明細に「組合費」とあるから、どっかの組合に入っているはずと考えた。調べてそれらしい組合に行って「僕の名前が組合員リストにあるか確認したい」と頼んだ。すると相談員の男性から怪訝そうな顔をされ、「払っていても、それがウチかどうか分からないな。組合員になりたいなら、別に組合費を直接払ってくれ」と言われて驚いた▼今思えば「組合税」を国に払っていたのだ。つまり「組合税」は組合のためであって、労働者本人に直接の利益はない。むしろ、勤労者の通勤の足を奪うデモを打つ組合を太らせる。自分が入りたい組合に入る権利を労働者が持てないこと自体、本来おかしいのでは。(深)