「アミーゴ(友人)との良好な関係がビジネス成功の鍵」―。伯日国際青年会議所(JCI、中野マルシア会頭)は、駐在員向けに日伯両国の文化や伝達手段の違いを解説する『ブラジリアンマインド』(ブラジル人の心)講演会を先月27日、サンパウロ市文協の小講堂で行った。公演には、商議所会員60人を含む100人近くが参加し、深く傾聴していた。
創立35周年を迎える同会議所が、今年3回に渡って開催するイベントの第一回目。駐在員とブラジル人スタッフとの間で文化や習慣の違いを尊重しながら、互いに働きやすい環境を構築することを目的とした講演。両国を股に掛けて第一線で活躍する若手の大野友香さんと有村侑奘ヘンリーさんが招聘された。
後援の在聖総領事館からは中前隆博総領事が出席し「崇高なイニシアチブだ」と称賛した上で、「日伯の間に文化の違いがあるのは自明。それを越えて共通の場を模索する機会になれば」と期待を込めた。
ピニェイロネット弁護士事務所でジャパンデスク責任者として日系企業を担当する大野友香弁護士は、「物事の進め方を左右するのは人間関係。友人ベースで解決される場合が多い」とブラジル人の処世術を指摘し、「日常生活も含めた人間関係の構築を」と提案した。
チームよりも個人を優先する西洋的価値観に加え、社内異動が無く、キャリアは自分で構築するものとの考えが根底にあり、会社よりも家庭を優先させるなどといったブラジル人の価値観や行動特性について説明した。
進出企業では、本社からの指示に左右される事例が多く、「文化背景が分からないままブラジル人スタッフに指示を出すと、不正やミスが生じやすい」と構造的問題を指摘。「状況を把握し日語を解する管理職を中間に置くこと」や「マニュアル化し、情報共有することも大切」と提言した。
留意点として、日系企業はハラスメント(嫌がらせ、いじめ)が比較的多いといい、「その人の為に言ったことが理解されないこともある。話し方や伝え方には十分に気をつけて」と訴えた。
Ikeen広告会社の有村侑奘ヘンリー代表は各種調査をもとにして、西洋人と東洋人の価値観には隔たりがあると強調した上で、日本が稟議書を回して時間をかけて合意を形成する「根回し文化」だとすれば、ブラジルは「ビール文化」と形容した。「あちこちへ行ったり戻ったりしてようやく目的に到達する」とユーモアたっぷりに熱弁を振るうと会場からはどっと笑いが起きた。
さらに「駐在員は言葉を習得することが第一になっているが、文化を知ることはより重要」と続け、キリンビールのブラジル市場撤退などを引き合いに、「世界のスピードは益々早くなっている。伝統が固定化しているほど変わるのが難しい。日伯の差異を理解した上で結果を出して欲しい」と進出企業の活躍に期待を込めた。
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孫子の兵法の一節に「彼を知り己を知れば、百戦して危うからず」とある。相手を知り自分を知ることは戦において重要であることを示しているが、「ビジネスにおいてもそれは同じ」と有村さんは強調する。両国で豊富な職務経験のある有村さんだけに、日伯の商習慣の違いに関する鋭い分析は示唆に富んだもので、駐在員を「なるほど」と唸らせる講演だった。有村さん自身、日語は流暢だが、それでも日本の商習慣には戸惑うことも多かったとか。日本の商習慣は企業に勤めてから身につけるものが多く、学生は知らないことがほとんど。移民なら家庭内で骨身に沁みていることだが二、三世はブラジル人。「日系人だから」と日本人的なものを期待しすぎるのはムリだと、駐在員も肝に銘じた方がよさそう。