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《ブラジル》政治評論家が口を揃えて「テメルはお終い」

17日夜7時半に公開されたオ・グローボ紙電子版のスクープ記事

17日夜7時半に公開されたオ・グローボ紙電子版のスクープ記事

 17日夜7時半、テメル政権に致命的な激震が走った。JBS社主兄弟の司法取引供述に、「ジャブル官邸で今年3月7日、テメル大統領が兄弟に、エドゥアルド・クーニャ元下院議長が司法取引に応じないよう裏金を渡し続ける工作を相談している様子を録音したもの」が含まれているとオ・グローボ(G)紙サイトに暴露されたのだ(詳細は本紙2面で)。17日夜8時台のジョルナル・ダ・グローボのTVニュースからそのスクープで持ちきりになり、「この内容が本当であればテメル政権はもうお終いだ」とどのTV局ニュースの評論家も口を揃えた▼誰もが「テメルの身が潔白であるとは思わないが、彼を来年まで続けさせて財政再建をさせ、その上で来年の選挙で怪しい奴を全て落とすしかない」という諦め含みの気持ちだったのが、再び「奈落の底」に大穴が開いた。最近ようやく上向き加減かと思われる経済数値のニュースに一喜一憂していたさなか、とんでもない爆弾が破裂した。今回は現役大統領を直撃する超メガトン級だ▼JBSといえば世界最大規模の牛肉・豚肉・鶏肉の生産加工会社だ。サンパウロ市に本社を置くが、創業は1953年にゴイアス州アナポリスだ。売上高は1629億レアル(2015年)で、世界110カ国に食肉を輸出する。つまり、建築業界におけるオデブレヒト(O)社よりも、世界的にはさらに巨大な存在といえる。ルーラ政権期の2005年に亜国進出を果たして以来、破竹の勢いで欧米企業を買収し、世界進出を果たしてきた。それを支えたのはBNDESからの「好条件」な融資で、見返りのように多額の選挙資金を提供してきたと言われる。つまり、今回の爆弾は、テメルの首が飛ぶ、飛ばないに関わらず、世界の経済界に対してはO社幹部の司法取引以上の影響を及ぼす▼TVコメンテイターの話を総合すると、「今後ありえる筋書きは、TSE(選挙高等裁)がジウマ/テメルのシャッパの無効判決を出すことだ。テメルも罷免し、ジウマだけでなく彼の政治生命も剥奪する。その上で、連邦議会で間接選挙を行い、来年末までの短期大統領を選んで、とりあえず政権を立て直す。現状ではテメルが基盤とするPMDBが中心とする与党政権となるのではないか。年金改革や労働法改革の可決は、新大統領が決まるまで数カ月は遅れる。その間、財政再建もずれ込む」という意見だった▼ここ数カ月はエスタード紙のスクープが多かったが、今回はG紙だ。今回も新聞社のサイト記事が発火点になったことは共通している。今も取材能力は、テレビよりも新聞の方が高いようだ。ただし、今回は午後7時半という夜の全国版TVニュースの直前にオ・グローボ紙サイトに公表され、テレビにおいてもグローボが独占的に報道を始めた▼グローボ・グループが本腰を入れてこの問題を掘り下げ始めたことで、今まではテメル政権を「来年まで温存か」という雰囲気が大勢を占めたメディア全体の報道姿勢を一気に塗り替えた感がある。今回の特徴は左派のプロ活動家から、最近の抗議行動を牽引している中道の市民団体までが揃って「テメルはもうダメだ」となっている点だ。ただでさえ、支持率が低いテメルにトドメを指すのに十分な爆弾だ▼ブラジル経済の「最後の希望」「命綱」は農業界だった…。JBS司法取引以後は、連邦警察の捜査対象が大きく変わりそうだ。今までは建設や電力、資源業界が中心だったが、これからはJBSを中心とする食肉加工業界、BNDESを始めとする金融界、そしてアエシオ上議(PSDB党首)も直撃し、色々な党に広がっていきそうだ。司法関係者にも手が伸びる可能性すら指摘される▼特に、今まで公表されていなかったBNDESの経営実態の内幕が出てくるだけでも、今年後半の経済指標に大きな影響を与えてもおかしくない。「テメル温存」の空気は一変した。徹底浄化のステップに入ったようだ。(深)