テメル大統領は20日午後3時前、緊急声明で「盗聴者は完全犯罪を行った」との異例の糾弾をした。ここから分かることは「JBSのバチスタ兄弟にはめられた」と大統領が激怒していることだ。ブラジルには「大物役者」がそろっていると思っていたが、今回ばかりは度肝を抜かれた。いくら政治家の汚職がひどいとはいえ、自分と企業を生き残らせるために、大統領や祖国を「売る」かのような行為にも見えるだからだ▼ジョエズレイ・バチスタ氏は司法取引供述を済ませた直後の10日、家族と一緒にさっさと米国行きの飛行機に乗り込んだ。司法の承認をえて今後は米国で生活する。巨額の賄賂を1829人の政治家に渡した事実を暴露したのだから、ピストレイロ(暗殺請負人)が何百人と向かってもおかしくない。当然だ。とはいえ、最大手ゼネコンのオデブレヒト元社長のマルセロ被告は、同じく司法取引したにも関わらず刑務所にいる。不平等感がくすぶる状態だ▼司法取引するためにジョエズレイ・バチスタ氏らはポケットに録音機を忍ばせ、要人に会っては裏金の打ち合わせをして録音した。相手が大物であればあるほど司法取引の条件が良いと見通して一番の「大物」を選んだ。しかもグローボがすっぱ抜く直前に、JBS社は報道で自社株が下落するのを見越して大量に売り、代わりに10億「ドル」を買った。「年金改革、労働法改革は先送り」報道に、暴露翌日にレアルは暴落。つまり翌日にレアル換金したら大もうけだ。「兄弟の司法取引の罰金以上の儲けがあった」との報道もある。とはいえインサイダー取引にあたる可能性があり捜査が入った。とんでもない「やり手」だ▼世の中にはいろんな見方がある。今回はグローボ局が「一枚噛んでいる」と指摘する専門家もいる。フリボイ(トニー・ラモスのCM)、セアラーなどJBSグループ企業は、同局第3位の大広告主だからだ。アニェンビー・モルンビー大学のウィルソン・フェレイラ教授は「グローボはネット企業のフェイスブックやグーグルに広告主を奪われ、大赤字になって経営が大変苦しい」との事情をブログで指摘する▼おもえば、テメルが暫定大統領に就任した昨年6月から、グローボTVは独自に「Agro é Pop(農業はポップだ)」農業振興CMキャンペーンを始めた。もちろん主要広告主はJBSグループだ。広告主を失いたくないが報道はしなければならない。ならば大広告主(JBS)が「軟着陸」できるタイミングと方向性でニュースを出すという選択肢だったのではないか―という意味で「一枚噛んでいる」との指摘だ▼たとえば「テメルはもうお終い」という悪役を政治家側に押し付けた報道の仕方だ。またスクープがいつ出るか知っていたから、JBSは大量ドル買いができた。つまりグローボと内通していたとの指摘もある▼だいたいJBSは、PT政権の「世界的ブラジル企業を育てる戦略」によって、わずか10年間で売上高が40倍に急成長し、世界最大級になった成り上がり企業だ。国営銀行BNDESから80億レアルもの巨額融資を、政治家の口利きで湯水のように注いでもらって肥大化したと噂される▼万が一、国民の血税で大きくなった多国籍大企業が、自らの生き残りのためにブラジル最大メディアを使って、現職大統領や次期大統領候補の汚職を暴露して首を差し出し、株式市場を10%も大暴落させ、レアル下落まで起こして経済再建を遠のかせたのであれば、その道義的な罪は深すぎる…▼もちろん政治家も政治家だ。倫理の欠けた政治家と強欲な企業家が恥のぬりあいをして泥試合を長引かせ、国民が犠牲になる構図といえる。「テメル辞任が遅くなるほど、ブラジル経済再生は遠のく。2週間後に選挙高等裁判所のジウマ/テメルのシャッパ無効判決が出るか、それまでに辞任すれば、優秀な現経済スタッフへの信任は厚いから、間接選挙でメイレレス大統領の可能性も」との待望論も高まってきた。とにかく一寸先は闇だ。(深)