真鯉の中から突然変異により出現したものを、地道な品種改良の積重ねて宝石のような魚にした日本の国魚「錦鯉」。全日本愛鱗会ブラジル支部(アンドレ・カルンボ会長)は、『第36回ブラジル錦鯉品評展示会』を先月26から28日、アチバイア市内エドムンド・ザノニ公園で開催した。全伯から参加した18人の生産者が、手塩にかけた錦鯉を出展し、来場者は色彩豊かで絢爛豪華な泳ぐ宝石に魅了された。
今大会では、英国支部と同支部4人の審査員によって審査を実施。15~65センチ以上の5センチ毎の体長別及び種別を合わせ40部門と、10センチ毎に区分される5部門と総合優勝が選ばれる。
審査基準となるのが、体形、色彩、模様の3つだ。最優先とされるのが、体高や体幅のある豊かな肉付き。それに続き色彩の美しさと対比、均整の取れた模様が総合的に評価された。
今回総合優勝に輝いたのは、「力強さを感じさせ優雅」と評価され、墨の地体に白の斑紋が入った50センチ級の『白写り』を生産したアンドレ・バルビザン(34)さんだ。
アンドレさんは参加2回目という新人。5年前にテレビ番組で錦鯉に魅せられ、生産者の道を志した。「まさか選ばれるとは思っていなかった。本当に嬉しい」と驚いた様子。養殖の秘訣を聞くと「一番重要なのが何よりも選別だ」と語る。「5年がかりでやっとここまで育ったけど、日本では2年でこの大きさに育つ。日本のレベルに追いつけるようさらに技術を磨きたい」と期待を膨らませた。
同会の創立会員で家族とともにマイリポランで養殖業を営む田邊治喜(69、福岡県)さんによれば、雌が産卵する約11万個から受精するのが約5万個。品評会に出展できるような錦鯉に育つのはそのなかでも「ほんの一握り」だ。
キレイな「いい鯉」は体が弱いという。広い池で、餌も酸素も十分に与えて贅沢に育てることが重要という。確率論からいえば、養殖池全体の生存率が高くないと、体の弱い「いい鯉」は生き残れない。体に模様が現れる生後約3カ月で1回目の選別となる。
だから「その段階で生存率が70%なら、既に良い稚魚はいない」という。もっと贅沢に資金を投じた生存率が高い養殖環境でないと「良い稚魚」は残らない。厳しい世界だ。その後も成長と共に模様が変化してゆくため、「選別に選別を繰り返し、ようやく品評会に出せる錦鯉に育つ」と語る。
生産者18人だが、日系人は田邊さんと息子レオナルドさんの2人のみ。最高級のブラジル産錦鯉は2万から3万レアルの値段が付く。大きな池を保有するブラジル人農園主が多く飼育しているなど現地化が進んでいる。
アンドレ会長は「出展された錦鯉は、全て国内で養殖されたもの。この10年間で品種改良が重ねられ水準が上がってきている」と確かな手応えに喜びを語った。
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ブラジルの錦鯉は、日本と比べると体形が劣っているという。審査員の尾西貞治ロニーさん(37、二世)は「遺伝的に優良な種鯉を交配させないと大きくならない。ブラジルには一メートル級の鯉はいない」と語る。05年に日本でコイヘルペスウイルス感染発生以来、種鯉の輸入が禁止されたことがその背景にあるようだ。酵素やビタミン等を含んだ飼料改良や、餌撒き回数など飼育方法にもかなりの違いも。
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創立会員である田邊さんに養殖の醍醐味を聞くと、「宝くじ的なところが面白い」と言う。「錦鯉は生まれ持ったものが7割で、残りの3割は水質と餌で決まる」とか。「長年の技術や知見をいかに織り込み、よい錦鯉に育てられるかが面白い」という。さらに「静的ではなく、動的な美しさ。色彩豊かな錦鯉が群れを成したときの美しさは格別。餌を上げると手まで寄って来て人懐っこい」と語り、手間隙かかる養殖に隠された魅力を語った。