「裁判官として、墓地の穴掘り人の役割は拒否する。通夜に足を運んでもよい、だが、棺桶をかつぐ気はない」。注目のジウマ/テメル・シャッパ裁判で無効を強弁したヘルマン・ベンジャミン報告官が語った、この言葉は実に興味深い。棺桶の中に横たわっているのは「司法」そのものを示唆している気がする▼対するジルマール・メンデス選挙高裁(TSE)長官は「大統領はしょっちゅうとり替えるものではない。任期剥奪は混乱のない時期にすべきだ」と有効を主張。4対3の僅差でテメルは生き延びた。有効に入れた2人は、大統領が先月指名したばかりの新人であり、政治家の「指名権の力」をうかがわせる▼以前書いた、反ラヴァ・ジャット(LJ)作戦の志を同じくするルーラ(PT)、サルネイ(PMDB)、FHC(PSDB)らに象徴される幅広い政界の裏幕、司法界上層部の一部を取り込んだ「テメルのアコルドン」(大同盟)が機能している雰囲気が濃厚だ▼次に予想されるのはJBS司法証言取引の証言内容にもとづく、ジャノー連邦検察庁長官から最高裁へのテメル捜査許可の請求だ。ジャノーはJBSショック以来「テメルの首をとる!」姿勢をあらわにした。もう後戻りができない▼しかしジャノー長官の任期は8月頃まで。それまでに追い落としを決定付けないと、逆に彼の首の方が危うくなる瀬戸際だ。エスタード紙5月15日付によれば、今月最終週に検察関連公務員は立候補者8人から3人を内部選挙で選ぶ。だが困ったことに、長官任命の権限は大統領にあり、上院の承認まで必要だ▼大統領は「三権分立」「司法独立」の建て前を尊重し、同選挙の最多得票者を指名するのが〃伝統〃だ。だが伝統に法的な強制力はない。別の人物、例えばLJ作戦に懐疑的考えを持つ人物を指名することも可能だ。法相のように…。同長官が大統領や上議を告発するいまの状況において、ジャノー本人や同じ志を持つ後継者が再任されるのは相当難しい▼米国のCIAにあたるABINが、LJ作戦を担当するファキン最高裁判事の身辺捜査をしている件も報じられた。大統領捜査を許可できる立場にある同判事に対し、大統領に近いスパイ機関が圧力をかける構図だ。連邦検察庁長官には伝家の宝刀「指名権」、最高裁判事にはABINをぶつけるという、かつてない展開。テメルはあらゆる手を尽くして生き残ろうとしている▼「汚職」はブラジルに巣食う〃ガン〃であり、体中をむしばんで経済は末期的、致命的な状況。緊急手術をして〃病巣〃(汚職政治家)を全摘出(摘発)しないと手遅れになる―そんな危機感を司法界の若手エリートが抱いている▼だがこれも行き過ぎると《司法至上主義》的な弊害も生まれる。そこの判断が難しい。メンデス長官の言葉を言い換えれば、「汚職は撲滅すべきだが、片っ端から主要政治家を摘発していったら、執政する人材がいなくなり、国政が混乱しすぎる。今はその時ではない」とも解釈できる。ガンの喩えに戻れば「身体から病巣を全部取ってしまったら、内臓まるごとなくなって死んだ」状態だ▼現状で一番、政治交渉能力に目立った力(良くも悪くも)を発揮しているのはテメルだ。彼が落ちたとして、別の与党政治家が大統領に間接選挙で選ばれても、彼以上の能力を発揮することは難しそうだ。「いい代替え役がいないなら、来年までテメルにやらせるのが一番無難」というのが「アコルドン」の共通理解か▼もしJBSショック直後にPSDBが与党離脱を決めていれば、政局は動いた。だがPMDBを捨てて政権をとるには、PSDBはPTら左派勢力と組む必要がある。さすがにそこまで踏み切れない。それなら揺れるふりだけして腹の中は残留か▼テメルが弾劾裁判を避けるには、連邦議会の3分の1の支持があれば十分だ。「アコルドン」が効いている限り罷免は限りなく不可能。ジャノーVSテメルの手に汗握る攻防は、これからが本番だ。(深)