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2千年分の贖罪ができるブラジル司法はキリスト並み?!

最高裁前にある司法のシンボル

最高裁前にある司法のシンボル

 37人の女性患者をレイプした件で「278年の懲役」を科せられたロジェル・アブデルマッシ元医師(74)が、パラグアイに逃亡中に現地警察に拘束され、ブラジルで刑務所に入っていた。と思ったら〃優秀〃な弁護士が「高齢と健康不調」を理由に、電子足輪付の自宅軟禁の判決を勝ち取り、先日たった3年で出獄した。約300年がたった3年だ▼21日晩のBAND局ニュースでアナウンサーのリカルド・ボイシャーは「獄悪犯罪をしておいて、たった3年で出獄し、患者をレイプしながら稼いだプール付きの超高級マンションで、好きなように時間を過ごして余生を送らせていいのか」とするどく批判した▼「37人をレイプして約300年の刑」という数字に愕然とした。どれだけのたくさんの犯罪を行えば「2千年の刑」になるのか―と。というのは、JBS社主バチスタ兄弟は連邦検察庁と、今までの犯罪を暴露することと引き換えに、「2千年の懲役を赦す司法取引を行った」と6月4日付エスタード紙に報じられていたからだ。バチスタ兄弟が犯した240回の違法行為、124回の贈賄、96回の資金洗浄など8種の刑法犯罪を総計すると、最低でも1400年、最高なら2千年になる可能性があったという。何度も生まれ変わってすら一生を刑務所で過ごして余りあるのに、司法取引のおかげでジョエズレイ氏はニューヨークの超高級アパート生活を続ける▼なぜ連邦検察庁が2千年分の罪の赦しに応じたかといえば「大統領の犯罪を立証する」ためだ。JBSは目の上のたんこぶだった経済防衛行政審議会(CADE)の問題を、ロドリゴ・ロウレス元大統領補佐官と裏取引をしてテメル政権の政治力で解決してもらった。それと引き換えに、JBS社は毎週50万レアル(約1670万円)を25年に渡って賄賂として払うことになった。この交渉をしたサージJBS社役員は司法証言で「25年も渡すんじゃ、まるでミッシェル(テメル)の年金じゃないかと(ロウレスに)抗議したが、逆に『30年にすることを考えている』と返された」と証言した。さらに「我々の認識では、これはあくまでテメルへの賄賂。ロウレスはただのメッセンジャー(伝令)」とも。目がくらむような〃年金〃だ▼第1回目の50万レアルをサンパウロ市のビザ店でロウレス容疑者が受け取って、タクシーで持ち去る様子が連邦警察によって撮影され、繰り返しマスコミで放送されている▼もしもレイプ犯が2千年の懲役の判決を下されるには、単純計算で247人分の被害者が必要だ。もう「人間の域」を超えている。この「2千年分の罪を赦す」という言葉には、あまりに壮大な行為のニュアンスがある。実際あるサイト(https://www.sensacionalista.com.br/2017/06/05/)は「2千年の罪を赦したJBSの司法取引は、司法のシンボルを、キリスト像に替えた」と揶揄した。最高裁の建物の前に立つ司法のシンボルは、目隠しをした女神が手に剣を持つ姿だ。目隠しをしているのは、資産や見かけに惑わされずに万人を平等に扱って、剣で裁くという意味だ。それが、人々の罪を背負って十字架にかけられたキリストの像に変ったと揶揄する。同サイトによれば、ジョエズレイ氏は「キリストのおかげで、人類は2千年前に贖罪した。でも今回の司法取引のおかげで、私はキリストのそれよりも救われた」とシャーシャーとコメントしている▼彼は先週、再び連警などに証言を付けたしに戻り、エポカ誌に独占インタビューをさせて「テメルは最も危険な犯罪組織のボスだ」「ルーラ政権時に汚職構造は制度化された」などとトドメを刺すようなコメントをはいた。日本には「目くそ鼻くそを笑う」というカワイイ言葉があるが、そんな日本的常識には治まらない「世界の現実」がここにある。人類史上稀な2千年分の罪を犯した人物が、「大統領こそが最も危険な~」という言葉を吐く構図…。それ自体あまり滑稽すぎて嫌味を言う気も起きない。(深)