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『百年の水流』開発前線編 第三部=リベイラ流域を旅する=外山 脩=(19)

 98㌫の票を獲得した日系市長候補

ルイスさん

ルイスさん

 以下、話の趣きは変わるが。──
 2012年10月の統一地方選挙の折、あるムニシピオで、日系の市長候補が98㌫の票を獲得して当選した‥‥と報じられた。筆者は(そういうことが、現実に起こり得るだろうか?)と疑問を抱いたが、見出しだけ読んで本文には目を通さなかった。
 ところが、後日、それがカジャチであり、ファミリア古賀の四男ルイスさんであることを知った。そこで2013年1月、プレフェイツーラを訪問、市長室で話を聞いた。
 ルイスさんは1967年生まれというから、40代半ばであった。2008年に市長選に立候補するまでは、家業のバナナ作りをしており、政治家になることなど考えてもいなかった。それが住民から推されて立ち、当選した。
 そして二期目の選挙で98パーセントという票を得たわけだが、実は開票直後の集計では70パーセント台だった。しかし次点の候補が失格、規定により、その票が他の候補に──それぞれの得票率に比例して──分配された。それで98㌫になったという。
 (なるほど、そういうことだったのか‥‥)と、筆者の疑問は一応解けた。ただ70パーセント台でも、かなりの高率である。その理由を、自身はどう思っているか訊ねてみた。
 ルイスさんは、一期目に教育に力を入れたことを挙げた。25の小学校の給食の改善、学用品、制服の支給その他。
 給食は、業者への委託を止め、プレフェイツーラで直接、管理した。業者だと、利益を第一に考えるため、質に影響するからだ。学用品は必要なモノはすべて与えた。
 制服は二種類(暖かい季節と寒い季節用)を靴下や靴までつけて‥‥。生徒の送り迎えのオニブスを運行させた。ちなみに、生徒の総数は4、000人を超す。
 ポリシア・ミリタールに頼んで、彼らが非行化しない様に指導して貰った。
 三カ所の恵まれない地区に、子供たちが放課後に過ごす施設を作った。
教師の質を上げるためのクルソ(講座)を開き、待遇も改善した。
 教育以外では──。
 右の三カ所に、幼児を抱えて働く母親のための託児所も設けた。
 前市長は貧しい住民から乞われると、薬代や電気代を施していたが、それは止め、代わりに病気にならない様に指導、内職を斡旋した。
 町を美化し、財政をガラス張りにした。
 毎年末には、その年(市長として)何をしたかを、所属する党の機関紙に載せ、全住民に配った。経費は自分で負担した。
 以上でルイスさんの高率得票の所以が判ったが、筆者には今一つピンと来ないものがあった。そのくせ、それが何なのか気つかず、そのまま、帰途についた。後である人が、こう教えてくれた。
 「ルイスの対抗馬だった前市長には、地元企業と癒着しての汚職の疑惑があり、住民は怒って、ルイスを推した。二期目の選挙で失格した候補というのは、その前市長‥‥」
 これでスッキリとした。
 ちなみに、このルイスさんは、サンパウロで弁護士をしている古賀アデマール氏の甥に当たる。