26日に、テメル大統領が検察庁から収賄疑惑で告発を受けたことは全世界的に衝撃を与えた。同大統領が昨年のジウマ前大統領の罷免で副大統領から正式に昇格して1年も経たない状況だったためだ。
テメル氏はジウマ氏が罷免の審議に置かれている最中から、「自分だけ裏切ってジウマ氏を追いやった」と解釈する国民が多く、就任した当時から支持率が10%前後と低迷していた。
テメル氏はジウマ氏が下院の罷免審議直前に自身が所属する中道政党・民主運動党(PMDB)を連立政権から離脱させていたが、これも逆効果だった。2014年から進行する連邦警察の汚職捜査ラヴァ・ジャット作戦ではジウマ氏の左翼政党の労働者党(PT)が汚職実践のターゲットと見られたが、PMDBも同様に捜査対象になった。PT支持者からすれば、「ジウマ氏はPMDBのスケープゴートにされた」という印象だった。
このテメル氏告発の1週前に調査機関のダッタフォーリャがアンケートを行った結果、テメル政権は既に7%と過去最低、歴代政権でも28年ぶりの低支持率に陥っていた。
そして時を同じくして行われた、来年18年10月に行われる予定の大統領選での支持率調査では、PTのルーラ元大統領が支持率30%と圧倒的な強さでトップに立っている。
ルーラ氏はラヴァ・ジャットで既に6件の裁判の被告になり、国民も不信感を募らせている段階だが、低所得者層と知識層を中心とした30%ほどの固定支持層は、どんなにネガティヴな報道がされようが、「ルーラ氏は罠にはめられているだけだ」と言わんばかりに、逆に支持者の信念を頑ななものとしている。あるいは、2003~10年の任期中にブラジルを経済大国化させたルーラ氏の手腕を買い、「みんな汚い政治家ならば実績で」とルーラ氏を支持する向きも考えられる。
同調査の2位には極右系小政党のキリスト教社会党(PSC)のジャイール・ボルソナロ下院議員が16%で、3位には元PTでルーラ政権時に環境相をつとめたマリーナ・シウヴァ氏(REDE)が15%の支持率で入った。
ブラジルの大統領選において、PTの最高の対抗馬である穏健右派・民主社会党(PSDB)の候補が3位以内に入らないのは異例だが、これは14年大統領選でジウマ氏に僅差で敗れたアエシオ・ネーヴェス氏が、今回、テメル氏を危機に追い込んでいる大手食品企業JBS社のジョエズレイ・バチスタ氏から収賄疑惑を暴露され、党のイメージが下がっているからだ。
ボルソナロ氏を支持する理由は反左翼的なものが強かったが、ここにきて、中道・穏健右派と、ヨーロッパで極右勢力の防波堤となった勢力の失墜を受け、同氏の名前が浮上してきた。同氏は女性、同性愛者、黒人、ユダヤ人などへの差別発言でメディアをにぎわせてもいるが、アメリカでドナルド・トランプ氏が大統領になったことで、「世界的な流れなのだからよいではないか」と、ブラジル国憲法の人権精神を無視する人たちが出てきている。
またマリーナ氏は10、14年の選挙で連続して3位となったが、PTよりもより理想主義的な左派だ。
PSDBは、あまり大きく騒がれてはいないものの収賄の疑惑はあるジェラウド・アウキミン・サンパウロ州知事が支持率8%で、実業家から転進し、現在、高人気のジョアン・ドリア・サンパウロ市長が同10%で続いている。
あと、本人が出馬を口にしているわけではないが、「もし出馬すれば」の条件付きなら、元最高裁長官のジョアキン・バルボーザ氏が11%、現在、ラヴァ・ジャット作戦を担当し、ルーラ氏を裁く立場のパラナ州連邦地裁のセルジオ・モロ判事も14%の支持率を獲得している。
これがラヴァ・ジャット作戦を推し進めた結果のブラジル人たちの望む次期大統領だが、現時点では2位以下の争点が政治力そのものではなく、「汚職をやるか・やらないか」の一点に集中している点は気にかかるところ。とりわけボルソナロ氏、マリーナ氏は下院議員が10人前後という小規模政党に所属しているから、果たして連立政権が組めるか、自身の政治哲学を通すことができるかという問題は残る。また、ルーラ氏に関しては、裁判の結果次第で出馬が難しくなる問題も残されている。(26日付G1サイトより)
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