連邦上院の教育文化スポーツ委員会(CE)は14日、「在日ブラジル人子弟の教育問題」公聴会を行った。言葉や文化の違いによる障害が大きいため、在日ブラジル人子弟らの日本の教育機関への適応が難しく、退学の問題が頻発している点などを発表者らは指摘した。教育レベルの低下により、ブラジル人子弟による不登校や非行、少年犯罪を招いていることも話し合われた。
教育省(MEC)のカルラ・バロゾ・カルネイロ顧問は教育問題への対策として、ブラジルの大学の日本語学科で学ぶ学生による、在日ブラジル人子弟への課外プログラムを提案した。両国間で合意されれば、学科の修了時に半年ほど奨学生として日本の大学で研修を受け、モニターとして子弟らが通う教育機関で放課後の補習プログラムや、ブラジル人向け保育園での研修を行なうもの。現在ブラジル国内の7つの大学で日語学科が設立され、毎年約150人が修了している。
クリストヴァン・ブアルケ上議(PPS―DF)は訪日の際、在日ブラジル人が通う教育機関を視察した経験から、「米国やカナダに住むブラジル人は言語を覚え、問題なく地域の教育機関に通い始める。しかし、在日ブラジル人子弟は言葉や習慣の違いの大きさから簡単に慣れることができず、ブラジルのルーツも消え、日本のルーツも得ることができない」と嘆いた。
カルネイロ顧問は「子弟らの進学の選択肢は日本の公教育か、現在70校あるブラジル人学校のみだ。同学校のうちMECが公認しているのは30校のみ」と指摘。ほとんどのブラジル人学校はデカセギが始まった際、教員資格を持たない労働者自身らによって始められた。同顧問は「ブラジル人子弟が日本の教育機関に通学することで、いじめの対象にされる心配があり、日本社会に適応できるかどうか不安がある」と懸念を語った。
マリア・ルイザ・ロペス・ダ・シウヴァ外交官は「ブラジル人子弟の多くはブラジル人経営の家庭託児所に預けられるので、4~5歳で日本の幼稚園に入園するときの日語能力はゼロだ」と発言した。
現在18万923人のブラジル人が日本に居住しているが、うち4万1896人(23・15%)が19歳以下の青少年だが、日本では外国人子弟の教育通学は義務ではない。
シウヴァ外交官は「自閉症の疑いがあると診断された就学義務年齢のブラジル人子弟は全体の6・15%、日本人の場合は1・8%が特別支援学級に通う」と明かした。
元在日ブラジル総領事館員はこの数字を、異文化に住む外国人児童の扱いを知らない医者の「不確かで軽率な診断」と疑問視し、「自閉症と診断され、特別支援教室行きを決められることは、子どもにとってあまりに重い現実」と述べた。
同外交官は「政府側から支援があれば、放課後プログラムのほか、子弟の保護者へ通学の必要性を指導し、MECがブラジル人学校の学力調査をしてブラジルの教育レベルとすり合わせるなどの活動が可能」とブラジル政府に支援を求めた。10カ年目標を設定し、各地域がブラジルの教育レベルの目標に準じた地域別計画を策定・実施する『全国教育計画』に、国外のブラジル人向け教育機関を組み込む必要性があること指摘した。
ブアルケ上議は課外プログラム案に好感を示し、「同プログラム実施を試みたい」と意欲を示した。
□関連コラム□大耳小耳
上院の公聴会には奨学生や大学の教師として17年日本に居住した経験があるキルトン・ジョゼ・オリヴェイラ・ロッシャさんも参加。ロッシャさんによると、日本のブラジル人学校は月5万円(約1500レ)の月謝が必要。あるブラジル人学校の2011~13年の卒業生23人の進路を発表し、「4人が帰国、17人が日本の工場で働き始め、1人が日本の教育機関に通い、学習を続けた。あと1人は日本に住み続けているが、通学も労働もしていない」と語った。
◎
シウヴァ外交官も会議中に東京と名古屋のブラジル大使館が行った「極めて最近の調査」を発表。在京大使館の管轄地域では、公教育機関に通ったブラジル人子弟の20%が日本の大学に通学し、ブラジル人学校を卒業した1人の生徒がブラジルの大学受験に合格した。名古屋総領事館は「40人のブラジル人子弟が大阪大学、37人が京都大学、20人が愛知大学に通い、そのほか約10人が様々な教育機関に通っている」と発表した。阪大サイトで確認すると、ブラジル人留学生が37人いるので、試験を受けて入学したデカセギ子弟は3人かも。もしも阪大にデカセギ子弟が40人も入学しているようであれば、彼らの教育レベルは決して低くないはず。実際にはそうでないから、このような公聴会が必要なのだろう。ぜひ連邦政府は予算をつけてほしいもの。