テメル大統領の心中は、ジェットコースター並みに激しく上下しているに違いない。先週月曜日にはジャノー連邦検察庁長官の起訴第1弾「収賄容疑」があり、地獄まで急降下した気分だっただろう。
だがその週のうちに最高裁判事の判断で、テメル側近のロウレス元下議が自宅軟禁に切り替えられ、彼が司法取引せざるをえない圧力は弱まった。さらにPSDBのアエシオ上議の復職が認められ、最大の味方・連立与党に戻ったことで、今後の議会運営に強力な味方を得た。さらに金曜日のゼネストも歯抜け状態で終わった。いわば1対3で、テメルには良い週末だったかも。
ところがこの4日、やはりテメルの裏交渉を支えてきたジェデル元大統領府総務室長官が逮捕された。これで再びテメルの気分は一気に下がっただろう。テメルVS検察庁の対決の「見どころ」は、互いに手の内のカードが多彩で、次々に予想外の手を繰り出してくる点だ。「そうきたか。ならこうだ」―そんなやり取りが毎週のように行なわれ目が離せない。
そんな中、気になる一言を聞いた。3日朝のCBNラジオで政治評論家ケネディ・アレンカールは、《先週金曜30日のゼネストに勢いがなかったのは、テメルが裏で、中央統一労組(CUT、PT支援組織)と手打ちをしたからとの話がある。現在、上院で審議中の労働法改正案の組合税廃止の項目を最後の大統領裁可で不許可にするらしい》とほのめかした。その後は「いったん廃止を許可するが、別の形で組合税的な制度を作る」可能性も報道された。何らかの裏交渉が進められている雰囲気が濃厚だ。
CUTは「労働法改悪から労働者の権利を守る」との建前でゼネストを呼びかけていたが、本音は「自分たちの最大の収入源である組合税廃止を防ぐため」と政治評論家に批判されていた。やはり組合さえ生き残れば…か。
テメルは起訴第1弾を下院で「不承認」に終らせると予想される。ただし、下院憲政委員会と本会議に2、3週間かかる予定。下院は今月半ばから休みに入り、8月1日に再開。これをはさんでジャノーは起訴第2弾、第3弾を準備中と報道されている。
つまり、一連の騒動は10月頃まで長引くかも。その間、社会保障改革法案などの重要審議は先送りされる可能性が高い。労働法改革とそれはマーケットが最低限課している現政権への課題なのに、ないがしろにされそうな流れだ。
ないがしろの一例が先の「労働法は何とか通す。だが組合税廃止は事実上、骨抜きに」という風に現れる。第3弾まで行くうちに、テメルの力が削がれ、野党の言い分が強まる流れのようだ。
だからエスタード紙(E紙)2日付けB5面には《政治危機は景気回復を2019年に先送りする》のような記事が出た。大統領も議員もまるごと選挙で刷新されないと、本当の景気回復機運にならないとの見方だ。ジウマを罷免しても、結局は「同じ穴の狢」が政権を担っている。その構図が続く限りは、検察庁はラヴァ・ジャット作戦で主要閣僚を揺さぶるだろうとの読みだ。
9月半ば就任のジャノー後任の出方にもよるが、もしパロッシ元財相が司法取引に応じれば、BNDESなどの「銀行危機」に傷が広がる可能性すらある。そうなれば回復は大幅に遠のく。
元財務省経済政策部長のメンドンサ・デ・バロス氏は、同E紙で《奈落の底から這い上がるには、インフラへの大規模投資が必要なことは皆が痛感。だが政治混乱が続く限り、その投資機運は生まれない》と指摘。
マルコス・リスボア氏も《政府や議会が危機に気をとられるうちに、国庫や州財政は待ったなしに悪化》と釘を刺す。
エジマル・バッシャ氏は《現政権はさっさと次にバトンを渡すべき。次の選挙までの時間は政治改革と憲法修正に費やす。現政権が居続けるほど、政治や経済への不満が高まり、来年の選挙で極右や極左などの極端な候補を国民が選ぶことにつながるのでは》と来年の選挙すら危惧する。
そうなら19年回復説説ですら楽観的に聞こえる。(深)
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