「味に命を吹き込むのが『旨み』。日本食の奥深さを存分に知ってもらいたい」―。そんな店主の願いを受け、サンパウロ市イタイン・ビビ区のレストラン街に初となる本格的な会席料理『良』が、昨年12月に暖簾をかかげた。
1925年に大阪で会席料理店を創業した曽祖父の血を継ぎ、サンパウロ市パライゾ区で『新寿司』を営む叔父の背中を見て育った山下エジソン良一さん(35、二世)。曽祖父の代からの「会席料理店」の念願がようやく実を結んだ。
15歳で修行のため訪日、『寿司勘』で8年修行を積む。19歳で師匠に連れられ、祇園で出会った会席料理に衝撃を受け、その道を志す。
帰国後、『新寿司』で7年間板長を務め、2011年に独立し『アゼ寿司』を開店。14年に再度訪日し、懐石料理を本格的に学んだ後、昨年末に自らの名前からとって『良』をオープンした。
「会席料理は、季節に応じて地元で採れる旬の食材を使う。だから、全伯各地から厳選したものでレシピを作る」という考え。それが体現されているのが、今季限定で提供される『和牛筋肉コーンクリーム』だ。
野菜と一緒にじっくり煮込まれた当地で人気の高いテール部位を使用し、その下に玉蜀黍のモーリョを敷き、酢と山葵で漬けられたシュシュを添えたもの。当地の食材を使って甘味、苦味、塩味、酸味を調和させ、旨みを最大限に引き出した独創的な一品。
「細部にこそ命が宿る」―。そんな店主のやかな気配りは、接客や器の細部に至るまで徹底されている。料理を盛りつけるこだわりの器は、全て特注品。当地の陶芸家・仁井樹美氏によって龍安寺庭園をモチーフとして作製された。
「いかに景色を見せるのかが技量の見せ所。一品一品と向き合い、大地のエネルギーを感じる。ここへ来れば日常から解き放たれ、禅の境地に浸れるような空間を作りたい」と語る。
こだわり抜いたという白木を使用した高級感ある対面カウンターは、客をしっかり見られるよう厨房を低く設計。「客足も上々。寿司屋時代からの馴染客もついて来てくれている。お陰様で平日もほぼ満杯です」と山下さんは笑みをこぼす。
5年来、贔屓にしているという弁護士ジェラウド・デ・フォベスさんも「まさに極上の料理。山下シェフは客の嗜好に応じて料理を出してくれる」と太鼓判を押す。
山下さんは「当地では寿司や焼き蕎麦などは一般的だが、会席料理は認知されていない。丁寧に説明し、日本料理の真髄を広く知ってもらいたい」と意気込む。
同店では5品、7品、9品のコース料理や、菜食主義者向けのメニューを用意。地上階にはカウンター席を含め36席、一階には宴会用の座敷一室と6席、ゆったりとした和の空間が広がる。
営業時間は火~土曜日の午後18時から23時まで。要予約。問合せは同店(11・3881・8110)まで。