この報告書は、日本と関係のある全てのブラジル在住者が読む価値のある内容ではないか。5月に日本外務省に提出された「中南米日系社会との連携に関する有識者懇談会」(堀坂浩太郎座長)報告書のことだ。
ここで提示された指針が、日本と日系社会との今後10年、20年を決めると言っても良い。日本外務省の許可のもと、本紙6面で今週から全文掲載するので、県人会、日本語教育関係者、日系団体役員は特に精読してほしい。
この種の提言は2000年以来、実に17年ぶり。その時は、日本と日系社会との関係は《「支援」から「協力」へと移行する意識が重要》だった。それが今回は「協力」から「連携」に進んだ。つまり対等な関係だ。一方的に「資金援助を」とおねだりする時代ではない。
17年ぶりに今回出されたのは、2014年に安倍総理が来伯したことが大きい。
その時《①中南米の日系社会は中南米地域の日本に対する信頼の基礎であり、今後とも、日系社会が築いた信頼を継承し発展させる、②中南米の未来を担う若い日系社会のリーダー達との絆を強化する、③日系人が誇りを持てる日本をつくる取組を通じ、絆を強化する》との基本的な考えを打ち出した。
報告書を読んで膝を打ったのは、特にこの件だ。
《日系社会における日本語の継承を含め、広く中南米における日本語の普及に注力しつつ、英語、スペイン語、ポルトガル語による発信の抜本的強化にも取り組む》
二世、三世、ブラジル人への日本理解を進めるにはポ語での紹介は最も根本的な点だ。
日本側においても《中南米への移住が国民にとって身近なものでなくなって久しい今日、中南米日系社会に関する日本国内の関心と理解を高めることが重要である》と強調し、具体的に《特に日本の若い世代への教育の観点からは、教科書等教育の場における取り上げも有効と考えられる》と提言している点も高く評価したい。
ぜひもっと教科書に入れて欲しい。
県人会関係者にとって大事なのは、次の部分だ。
《日本にゆかりのある方々も含め、中南米日系社会と地方公共団体の連携強化が重要であり、ルーツをたどることによって日本への親近感を高めるためにも、①県費留学生の受入等、海外県人会と地方公共団体との絆を深める取組について、政府とも連携した施策推進、②地方公共団体が行う中南米との文化交流事業等について、政府とも連携したその拡大のための施策推進、③海外県人会と地方公共団体をつなぐ組織体制の充実強化を図るべき》。
県財政ひっ迫から県費留学生や研修生が削減、廃止されてきた。「いまこそ復活を」と言いたい。
せっかく訪日したなら、彼らには母県の観光地を積極的に訪ねてもらい、ポ語でSNSやネットで観光情報を発信する事を心掛けてほしい。東京五輪にむけてブラジルから観光客を呼びたい県は多いはず。ならば留学生・研修生は一肌脱いで「連携」してもよいのでは。
報告書で一番高く評価したいのは最後の「在日日系社会に関する施策」だ。
いわく《中南米地域の210万人を超える日系社会の約一割に相当する約21万人が日本に在住し、日本の経済活動に対する貢献及び日本と中南米諸国の人的交流に重要な役割を果たしている。在日日系社会から日本と母国を結ぶ人材が育ち、将来の日本と中南米の架け橋として活躍することを応援する体制つくりが必要である。特に、在日日系人や母国への帰国者の子弟は、次世代の日本と中南米を繋ぐ力となるべき存在といえる。これら子弟が高度人材として育つよう、高等教育へのアクセスも含め支援することが重要である》
日本の教育関係者にもこれを共通認識として欲しい。
来年の日本移民110周年の節目だ。この提言後、初の大周年行事といえる。この大方針にそって日伯両側で絆を強めるような取り組みを期待したい。画期的な提言は出た。あとは、みなで実行するのみ。(深)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_004582.html