テレビをつけたらニュースで、見慣れない連邦下議が「Nos fizemos alteracoes que eu posso chamar de cosmeticas, no ambito do relatorio, aquilo que nao afeta a essencia do texto(我々は〃お化粧〃ていどの変更を法案に施した。法案の骨子はまったく変わっていない)とシラを切る様な表情でしゃべっているのを聞いて、間違いなく「換骨奪胎したな」と確信した。
この発言をしたのは、ニュートン・カルドーゾ・ジュニオル下議で、テメルと同じPMDBだ。調べてみると、大企業が滞納している巨額の税金を、一部免除するなどして払いやすくする法案「滞納税回収計画」(Refis)の暫定令のことだった。
彼が報告官をするこの下院委員会によって法案が変えられた結果、政府が当初見込んでいた税金の回収額130億レアルがなんと、たったの5億レアルに減った。わずか4%…。あきれた〃お化粧〃だ。
具体的に何をしたかといえば、例えば税金滞納分の利子と罰金に関して99%までの免除を盛り込んだ。ブラジル特有の現象で、元の税金より、雪だるま式に膨らんだ利子と罰金が問題だ。それを事実上ゼロにする変更をした。それを「お化粧」というのだから、小市民には理解できない〃政治家の常識〃だ。
税金の額が劇的に減って、企業はバンザイだ。政府に債務を肩代わりさせることで、企業を助けて政治家に対する大きな貸しを作ろうとしている。だが、財政赤字を補てんする財源として当てにしていた連邦政府にとっては大きな痛手だ。
エスタード紙7月19日付はその裏幕を暴いた。同下議が役員などの役職を務める企業が、連邦政府に対して5100万レアルも税金を滞納していることを暴露した。自分が経営に関わる企業を救おうとして、免税が大きくなるように法案を変更している構図だ。しかも、政権与党の議員がそれをやった。
いまブラジリアで起きていることは、政権と議員の「つなひき」だ。
連邦政府としてはメイレーレス財相ら経済スタッフが主張する財布のひもの引き締め、緊縮財政を推し進めたい。だが、連邦議員はもっとお金を使いたい。連立与党議員の中でも「セントロン」と呼ばれる会派は、ジャノー連邦検察庁長官のテメル告発を回避するのに中心的な役割を果たした。だから「俺たちの言うことを聞かないと、第2回目の告発を阻止しないぞ」と大統領を脅している。
大統領に対して優位な立場にある今を利用して、連邦政府の財布のひもをあの手この手で緩めようとしている。政治家たちは財政緊縮をやられると、来年の選挙で使える「手立て」が減る。
それなら今のうちにと政治改革と称して「民主主義基金」という美名を付けて国庫から選挙資金を確保しようとしたり、新人や左派に不利で伝統的政党(汚職まみれだとしても)に有利な選挙制度を導入しようとしたり、前述の「滞納税回収計画」を骨抜きにする動きが出ている。
経済政策スタッフの最優先課題は、なんといっても社会保障改革だ。
その駆け引きとして、あるていどセントロンの言うことを聞かざるを得ない状況となっており、社会保障改革よりも先に、政治改革法案など彼らが言うものが審議される状況だ。
彼らの言い分を通すには、財政的な余裕が必要であり、そこから先日の記者会見で今年の財政赤字の許容幅を1390億レアルから1590億レアルに拡大することが発表されたようだ。
つまり「200億レアル分、余計に使ってもいいよ」と財布のヒモをゆるめた形だ。そのおかげで、政府は財政収支の黒字転換の時期を2020年から21年に先送りせざるをえなくなった▼市場が高く評価するだけあって、経済政策スタッフの方向性はよい。
問題は、その政策を政治力を駆使して強引にすすめるべき大統領が、ジャノーの告発によって腰砕けになっていることだ。せっかくの緊縮策がどんどん骨抜きにされている。
この状態で告発第2弾がでてきたら、セントロンら政権内部に巣食う勢力がさらに暗躍を強める。大統領が恐れる本当の敵は実は内部にいる。この8、9月は現政権の正念場だろう。(深)