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シコ・ブアルキが6年ぶりのアルバム=音楽や歌詞での聴きどころは?

昨年のジウマ大統領弾劾裁判の際のシコ・ブアルキ(Pedro França/Agência Senado)

昨年のジウマ大統領弾劾裁判の際のシコ・ブアルキ(Pedro França/Agência Senado)

 カエターノ・ヴェローゾやミルトン・ナシメントらと並ぶ、ブラジルと州音楽(MPB)界の重鎮、シコ・ブアルキ(73)が25日、6年ぶりとなる新作アルバム「カラヴァナス」を発表し、話題となっている。
 シコは、MPB勢の中ではサンバ色の強い楽曲を書くシンガーソングライターとして知られているが、今回収録された9曲はジャズのスタンダード・ナンバーの色合いが濃く、全体がしっとりとした出来となっている。
 音楽的に見た聴きどころのひとつは、以前、ボサノバの女王の一人、ナラ・レオンとデュエットした曲、その名も「デュエット」を改めてレコーディングしたものだ、今回のデュエットの相手は孫娘のクララ・ブアルキ。まだ18歳という若さのクララは、シコの娘のエレーナと、アシェーの王様、カルリーニョス・ブラウンとの間に生まれた。
 この共演は2世代の差を感じさせず、シコの衰え知らずの歌声と、クララの瑞々しさがうまく交錯したパフォーマンスとなっている。
 また、「マッサランドゥピオー」ではもう1人の孫、シコ・ブラウンが作曲にも参加し、印象的なギターのフレーズを自らが奏でている。
 だが、シコやそのアルバムを語るなら、やはり歌詞を語らなければはじまらない。叔父にブラジルきっての国文学者アウレーリオ・ブアルキ・デ・オランダを持ち、60~70年代には、巧みなダブル・ミーニングで軍事政権の検閲をかいくぐって軍政批判ソングを歌って、国のヒーローとなったシコ。劇作家、小説家としても知られる彼にとって、やはり言葉は重要だ。
 今作は、そのシコの詩才が依然健在であることをアピールしてくれている。例えば「ブルース・プラ・ビア」では、好きになったビアという女性がレズビアンで、「どうやったら彼女は振り向いてくれるのだろう。いっそ女装でもしてしまおうか」というユーモア・センスを、齢70超えにして発揮している。
 シコは熱心な左翼・労働者党(PT)の支持者で、同党がラヴァ・ジャット作戦での汚職疑惑に揺れても、その態度は変わらない。昨年、ジウマ大統領が罷免された時も、自ら弾劾裁判に顔を出して擁護を訴えたため、国を代表する大御所アーティストにも関わらず、一部国民から強い批判を浴びた。今回のアルバムでは、「デザフォーロス(嫌悪者たち)」を通して、自身を批判した国民に向けて、現在の偽らざる心境を語りかけている。
 一方、発売前に一足早く公表された「トゥア・カンチーガ」でも、ひと騒動が起きた。それは、この曲が、不倫をした男性が家族を捨てて愛人のもとに走ることを歌ったためで、「妻や家族を捨てるのは男性優位主義の象徴だ」と主に女性たちから批判されている。
 それに関しては、シコはツイッターで、「本当の男性優位主義者とは、妻と別れもしないで愛人ともつきあい続けるような男だ」と反論し、批判を退けた。
 このようないきさつもあり、シコの久しぶりのアルバムは発売前から話題を呼んでいたが、フォーリャ紙のアルバム評では五つ星を獲得するなど、評判は早くも上々だ。
 このアルバムは、日本でもアップル・ミュージックやスポティファイなどのストリーミング・サービスで聴くことが可能だ。(23日付フォーリャ紙より)