「大どんでん返し」がジャノー連邦検察庁長官を襲っている。
検事の一人がスネに傷を持つ大物企業家をスパイのように送り込んで極秘の会話を録音させ、大統領を告訴する材料を得る代わりに、その企業家の懲役2千年分を免罪する――そんな密約をほのめかす録音が今週公開され、大変な騒ぎになっている。現役検事が裏で仕組んで「おとり捜査」をするような大胆な捜査手法は、いくらブラジルでも許されない。
「企業家が自主的に録音して持ってきた」というのが、今までのジャノー長官の言い分だった。でも今週公開された録音は「ジャノーに近い現職検事が、事前に同意した筋書きがあった」と聞こえる内容。
昨年までラヴァ・ジャット作戦を担当していた現職検事マルセロ・ミレルが、その企業家と「大物との汚職に関する会話を盗聴すれば、司法取引によって逮捕されないで済む」という密約をしていたかのように聞こえる。
録音当時、ミレルはジャノーの片腕的な存在だった。だから先週までテメル大統領を追い詰めていたJBS社主の司法取引証言が、「どんでん返し」となり、逆にジャノーを追い詰めている。
新しく公開されたこの録音は、社主ジョエズレイと役員リカルド・サウジの会話。この録音で「やったらどうだろう」と語られたテメル、アエシオなどの盗聴が、実際にその後実行された事実は重い。
その裏取引に応える形で、ジョエズレイらが盗聴したことが立証されれば「違法捜査」「やりすぎ」として、今度はジャノー側が不利に。ただでさえ、「社主兄弟の2千年分の罪を司法取引で免除したのはやり過ぎ」との批判が高まっていたから問題は深刻だ。
しかも大統領告発の第一弾があった際、テメルの弁護側が弁明にした内容そのものの展開となっている。「ミレルは在職中に違法に司法取引を手伝い、検察庁を辞めた直後にJBS顧問弁護士となり、何百万レアルもの顧問料をせしめている」と大統領は弁明の記者会見で言った。
ジャノーは「司法取引をミレルが手伝ったのは、検察庁を辞めた後だから問題ない」として来たが、今録音からは辞める前から関わっていたことが伺われる。ムリヤリ犯罪立証を図ったという図式になる。
ジャノーとしては直接関わったわけでない。だが当時の側近が深く関係したことであり、来週いっぱいの任期中にこの問題に結末を付けたいと考えている。だから記者会見、追加事情聴取も異例のスピード日程で取り組んでいる。
逆にいえば「この問題を次期長官に任すのは怖い」という心理が働いているのかも。次期長官とは温度差が確実にある。ラヴァ・ジャット作戦は今まで通りにはいかないだろう。ジャノーが「何が何でも大統領告発」と動いていた分、揺り返しが来そうだ。
この大どんでん返しのおかげで、テメル告発第2弾の衝撃は弱まりそうだ。大統領府は胸をなで下ろしている。ジャノーは記者会見でこの録音内容に関して、ジョエズレイら司法取引証言者は「隠していた」「ウソをついていた」と明言した。「証言者がウソをついた」とするなら、当然その証言は信用できない。信用できない証言なら「司法取引を見直して恩恵を返上する」流れにつながる。ジャノーは「彼らが提出した証拠は依然として有効」と強調しているが、今後の展開次第で分からない。
ラヴァ・ジャット作戦で捜査対象にされている大統領や政治家らが逆襲に出ることは間違いないからだ。ジャノーに「即、長官を辞任せよ」との強硬論も。ここぞとばかりに司法取引証言という制度自体を疑問視する声すら出ている。
最高裁としては、もっと決定的な証拠を同社主が隠しているとの心証から追加の証拠提出を命じたのだろうか。そこから出てきたのは「まさかの墓穴」だった…。まさにブラジリアは百鬼夜行の世界ではないか。(敬称略、深)