ブラジルのセルタネージャは国際的にはあまり知られていないが、いわば、「ブラジル版のカントリー・ミュージック」で、ゴイアス州など国内の農業地帯で非常に盛んだ。とりわけ2010年代以降は、ブラジル国内では圧倒的な人気音楽となっている。
その大御所で80年代からトップクラスの人気を誇る兄弟デュオ、ゼゼ・ディ・カマルゴ&ルシアーノのゼゼが、このほど政治的発言で物議をかもした。
ゼゼは11日、ユーチューブ上で、ジャーナリストのレダ・ナグレ氏の番組に対談ゲストとして出演した。
自身いわく、「政治にものすごく関心がある」と語るゼゼは、「国の汚職を強く批判するような番組に出られて光栄だ」と語り、自身の政治観について「僕は政治的だと言えるね。政界入りも誘われたことがあって、政治家とも話したけど、彼らは僕の政治知識に驚くんだ。僕はいつか、国民としてのつとめを果たしたいよ」と、将来の政界入りの希望までほのめかした。
だが、レダにブラジルの軍事政権時代〈1964―85年〉に話を向けられると、「こういうと頭がおかしいと思われるかもしれないし、もちろん民主主義獲得のためにブラジル人は戦ってきたのも事実だ。独裁政権に戻りたい人がいるのも信じられない」としながらも、「ブラジルに軍事政権はなかった。あれは警備政権だ」と答えた。
これに対しレダが、軍による検閲行為や政治犯への拷問、撲殺などの軍の行いについて語ると、「でも血を流した量から見ると、今のベネズエラやキューバ、北朝鮮みたいな国を独裁政権というべきだ」とし、「あの当時のブラジルは、あそこまでひどい国ではなかった」と主張した。
そして、「今は軍事政権と戦ってきたことで獲得した自由を利用しようとしている人がいると思うんだ」と、暗に労働者党政権への批判をほのめかし、「ブラジルが民主的な国家に戻るために、軍隊による体制の再構築が必要な場合もあるように思うんだ」と語った。
なお、「なぜ、軍隊なら腐敗した政界を救い、民主化に寄与するのか」の説明は、ゼゼからはされなかった。
この発言後、フェイスブックやツイッターなどでは議論が続いた。ブラジル国内では、労働者党寄りの左翼支持者は根強いが、同党の政治腐敗で極右化した人も少なくなく、意見の言いあいが行われた。
中には、ゼゼ・ディ・カマルゴ&ルシアーノの成功を描いて大ヒットした自伝映画「フランシスコの2人の兄弟」の内容を皮肉り、「軍から歌うのを禁止されたときがなかったっけ?」という意見も見られた。(12日付G1サイトなどより)