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U2がステージで敬意を表したブラジル人は? ルーラ、ジウマ元大統領には触れず

20日のU2公演の開演前の風景(本紙記者撮影)

20日のU2公演の開演前の風景(本紙記者撮影)

 19日から23日まで、アイルランドが生んだ世界的な大物ロックバンド、U2がサンパウロのモルンビ・スタジアムで公演中だ。6万7千人収容のスタジアムでの公演の入場券は、いずれも数時間で売り切れるほど圧倒的な人気で、現在、ブラジルのメディアでも大いに話題を呼んでいる。そんなU2はステージ上の言動でも大きな注目を集めている。

 U2といえばロック史上でも最も政治的なバンドで、世界各地の紛争や事件、飢餓などの問題や文化、歴史に通じており、時にはそれらの問題のために世界の首脳政治家と直接掛け合うことでも知られている。

 今回もヴォーカルでリーダーのボノはステージ上で、そうした話を多く展開したが、それは公演地であるブラジルにも及んだ。

 21日に行われた2日目の公演で、ボノはまず前半に、「昨日、(ブラジルの歴史的建築家の)オスカー・ニーマイヤーの建てたコパン・ビルに行って屋上からの眺めを見たけど、なんて美しい国なんだ」とブラジルに賛辞を送った。

 そして、「いつか、その美しい国にふさわしい政治家を君たちは得ることだろう」と言って場内を沸かせた。

 ここで注目されたのは、ボノがその政治家名を具体的に言わなかったことだ。ボノと言えば、元大統領のルーラ氏(2003~10年在位)と懇意で、彼の社会政策である「ボウサ・ファミリア」に関し、「ノーベル平和賞にも値する」と賞賛したことがあったほどだ。ルーラ氏は現在、ラヴァ・ジャット作戦の収賄容疑などで、10件近い告発を受ける中にも関わらず、来年の大統領選再出馬を目指していることが社会問題化している最中。ボノはそれを知ってか、あえてブラジル国民を刺激することを避けた。

 そして、後半のクライマックス、最後から2曲目に披露した「ウルトラヴァイオレット」では、「尊敬すべき、すべての強い女性たちに敬意を表したい」とのテーマのもと、曲中で背後に掲げた巨大モニターで、世界の「偉人」とでもいうべき女性たちの写真を次々と紹介したが、そこに多くのブラジル人女性も登場した。

 そのブラジル人女性の例をあげると、女性作曲家の元祖シッキーニャ・ゴンザーガ、現代美術の母タルシラ・ド・アマラル、「ブラジルのマザー・テレサ」の異名もとった修道女のイルマ・ドゥーセといった歴史上の人物から、ドメスティック・ヴァイオレンスに関するブラジルでの法制定を実現させたマリア・ダ・ペーニャ、そして黒人女優のタイース・アラウージョなど。タイースは現在の若い人気女優ということもあり、顔写真があがると歓声があがった。

 だが、「ブラジル初の女性大統領」だったジウマ氏の顔があがることはなかった。それは、ルーラ氏の後継者として大統領となった彼女が昨年、罷免されたことが大きかったのだろう。チリのバチェレ大統領の顔が登場したのとは対照的だった。

 また、これ以外にも、公演によっては、ブラジルの今はなき伝説的なロックシンガーで、共に同性愛者として知られたレナト・ルッソとカズーサの名前が、LGBTの権利を保護するための象徴的存在としてあげられた。

 また、ドラマーのラリーのTシャツには「検閲はもうたくさん」とかかれていた。これは現在、サンパウロの美術館で勃発した、裸の芸術家の身体を少女に触らせたことをめぐり、「わいせつか、芸術か」の論争を、世界的に有名な歌手カエターノ・ヴェローゾなどを巻き込んで展開されていることへの彼なりのメッセージではと見られている。

 ここまでブラジルの文化についてU2が踏み込んで知っているのをまのあたりにすると、ブラジル人も心をつかまれずにはいられないのではないだろうか。(19日付G1サイトなどより)