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本格的な社会保障改革は再来年か

エスタード紙10月27日付《本格的な社会保障改革は選挙後とエコノミストは評価》記事

エスタード紙10月27日付《本格的な社会保障改革は選挙後とエコノミストは評価》記事

 《本格的な社会保障改革は選挙後とエコノミストは評価》との記事が10月27日付エスタード紙にでた。25日に下院本会議でテメル告発第2弾を回避した直後、マーケット(国際金融資本)がその結果をどう評価したかを、著名エコノミスト3人に訊いた記事だ。それによれば、マーケットはテメル政権の投資イケイケ「青信号」の時期が終わり、「黄信号」になったと理解したようだ。

 公務員や政治家、軍人などを優遇し、受給開始年齢が若い現在の年金制度では、赤字額が年々かさんでいずれ破たんする事は誰の目にも明らか。だが、受給開始年齢を上げて国民を敵に回し、自分の年金を減らしてまで国の財政を考える政治家はいない。それに、強い組合を持つ大票田である公務員や軍人を敵に回す法案を、来年に選挙を控えた今、議会で通す勇気がある政治家も少ない。

 そんな議員のケツを叩いて、テメルが11月中に社会保障改革法案を通そうとするのは、マーケットが強く求めているからだ。テメルのように「次の大統領選挙には出ない」と公言し、歴代最低の支持率3%でもビクともしない人物にしか、遂行できない政策だ。

 国民の支持がないテメルにとって、景気動向指数の良さが唯一の支持基盤ともいえる。その景気動向のキモを握るマーケットが彼を見放したら、一気に経済は悪化し、議員仲間も見放す。だからマーケットが後ろから突き付けるナイフを常に意識して、政権運営することになる。

 テメル政権は「労働法改革」「政治改革」と「社会保障改革」を3本柱に掲げて昨年8月末に始まった。その一つ目の労働法改革が通過した直後、JBSショックが起きた。矢継ぎ早にジャノー連邦検察庁長官(当時)が大統領告発の第1弾、第2弾の矢を放ち、テメルはそれを連邦議会で否決するために「あらゆる手段」を尽くして否決票集めに苦心した。

 11月25日に下院本会議で行われた告発第2弾を審議継続するか、中止にするかの投票結果は、予想以上に切迫したものだった。「中止」251対「継続」233で、「欠席」が25票もあった。

 25票がもしも継続に回っていたら、テメルは過半数を制することができなかった。本会議で審議中止にするには最低172票があれば十分だが、前回の263票を大きく下回れば無様だ。それに今後控えている社会保障改革には最低308票が必要。ならばテメル支持票ともいえる「中止」派が、議会の半分を割ってはいけない。

 事前には中止票260~270票前後との読みがマスコミから流れていたので、票集めには相当苦労したようだ。それゆえに、25日当日にテメルが体調を崩して緊急入院したのは、このストレスが原因と見ることも可能だ。

 テメルは2度の告発回避のために、総計321億レアルもの膨大な政府予算を、票と引き換えに議員にばらまいたと10月25日付エスタード紙は指摘した。この予算は、告発がなければ政府の思惑通りに使えた。だが議員が自分と関係のあるプロジェクトに優先的に支出するように交渉し、票と引き換えに大統領が呑んだ。

 その交渉の結果、ギリギリの中止票が確保された。さすがに「テメル支持」を意味する票は入れづらい野党議員は「欠席」という形で、結果的に「継続票を減らした」とも考えられる。欠席した25人は14党にバラバラに所属するが、明確な野党議員も5人以上いる。残りも「与党内野党」的な位置にいる人物かも。もちろん本当に体調が悪かった議員もいるだろうが…。

 一番驚いたのは、告発内容を審議するはずの場で、大統領の犯罪の有無がほぼ議論されなかったことだ。議員にとっての関心の焦点は、いかに告発をネタにテメルを強請って予算を引き出すか―だったように見える。マスコミもそれを当然のこととして報道した。これがこの国の体質なのだと改めて唖然とした。

 第1弾、第2弾を通して使える交渉材料はすべて使い、それでも第2弾では票を減らした。もう〃残り滓〃のような交渉材料しか残っていない。それで本当に本格的な社会保障改革ができるのか―と考えた時、「本格的な改革はムリ。今回はミニ改革止まりで、本格的なものは選挙後」との見方が出たのは当然だろう。(深)