ブラジル政府最大の課題である年金改革は、5月のテメル大統領の汚職疑惑発覚や、その後のブラジル検察庁による、2回に及ぶ大統領への起訴と、議会による審理継続棄却などで、スケジュールも大幅に遅れ、大統領への求心力も低下。連立与党内の結束も大いに揺らぎ、議会可決も危うくなった。
国家財政の健全化のため、また、ブラジル経済を再び上昇気流にのせるために避けて通れない年金改革の行方を、国外投資家も注視している。
しかしながら、日々の暮らしで精一杯の国民が「長期的視野で見た国の先行きよりも、目先の、自分とその家族のためのお金が重要」と考えるのは世の常だ。
来年の総選挙も近くなり、支持母体からの圧力におびえ、年金改革賛成に二の足を踏む議員や、真っ向から反対姿勢を打ち出す議員、政治的意図から政府の意向に反対する勢力もいるが、連邦政府は、改革成立のため、改革の中身を緩和した上で与党議員との対話を強化し、少しでも賛成派を集めようと努力を続けている。
事態は予断を許さないが、ここにきて、金融市場には、政府の努力を評価し、「年金改革、年内の下院成立の見込みあり」との憶測が広がっている。
23日(木)は米国では感謝祭の祝日で、ブラジル市場の動きも少なかったが、年金改革成立の見込みが少し高まった事で、ドル/レアル市場は若干のドル安レアル高となり、各種金利も低下した。サンパウロ株式市場指数(Ibovespa)は微減だった。
23日、大手銀行イタウ・ウニバンコ社の主席経済分析員マリオ・メスキータ氏は、「ここ数週間の政府の動きで、年金改革下院通過の可能性は増した」と語り、「採決で負けた場合の政治的敗北の印象は酷いから、採決で勝てる見込みもないのに、『この日に採決する』と宣言などしないのが普通だ。だから、政府から採決の日が発表されたら、それは、承認も近いというサインだ」と続けた。
イタウ・ウニバンコ社の分析チームは、政府の譲歩案は、昨年、改革の議論がスタートした時の改革案の経済効果(国庫への支出削減効果、国民への痛みの度合い)の60%、5月のテメル大統領疑惑発覚直前期に、下院の委員会を通過した際の改革案の経済効果なら80%を保っていると分析している。
民間投資アドヴァイザー会社、XPインヴェスチメント社の主席経済分析員のゼイナ・ラチフ氏は、年金受給開始年齢の引き上げ、旧制度からの移行措置、公務員と私企業社員間の格差是正だけでも大きな成果といえるとした。
ラチフ氏はまた、「90年代末から2000年代前半にかけては、年金改革なんて理解できない国民がほとんどだった。しかし、今では普通に庶民が口にする話題になっている。『このままの社会保障制度では国が破綻してしまう』と、国民の意識が高まった証拠」とも語っている。(24日付エスタード紙より)