プロレスラーとして偉業を成し遂げたアントニオ猪木氏は、その圧倒的な知名度を背景に、政界に進出。1989年に参議院議員に初当選し、史上初のレスラー出身の国会議員となった。以来、スポーツを通じた国際平和を軸足に置き、政治活動を行ってきた。
「世界的に知られたことで、外務省ではなく、個人的ルートによっても、外交の道が開けてきた」と猪木氏は語る。
キューバのフィデル・カストロ前国家元首には6回ほど会ったことがあり、「議員として会ったのは、私が初めてだった。宝を隠したという伝説のある島をプレゼントしてもらい、『友人猪木の島』と名付けられている」と逸話を紹介した。
なかでも、世界を驚かせたのが、湾岸戦争での邦人人質解放への貢献だった。イラクの侵攻を受けたクウェートで人質となった邦人41人救出のため、イラクで「平和の祭典」を開催。自費でトルコ航空機をチャーターしてバグダードに入り、同典開催後に全人質が解放されたのだった。
猪木氏は「命を賭して国民国家のため、世界のために働かなくてはならない」と政治家としての使命を語る。
師匠である力道山が在日朝鮮人であったことから、日本と国交のない北朝鮮とも個人的なパイプを持つ。今年9月の建国記念日にも招聘され、訪朝回数は、優に30回を越える。
北朝鮮情勢については「国によって各々事情がある。日本の物差しだけでなく、その国のそれと合わせて見ることも大事」と語り、核開発が体制維持のための戦略であることを示唆しつつ、「どんな場合もどこか扉を開けておくことが必要。人の交流を閉ざさない事が重要だ」と強調した。
その後、質疑応答に移ると、子供時代からの熱狂的なファンからプロレスラー時代の話や、核開発問題で緊張が高まる北朝鮮情勢まで様々な質問が飛び交った。「つまらない質問だったら、バカヤロー」と冗談を挟むなど、終始笑いを誘う場面もあった。
最後に、元気の秘訣について「一歩踏み出す勇気が大事だ」と語り、座右の銘という一休宗純の「道」を暗唱。恒例の「闘魂注入」では、希望者が殺到するなかで唯一選ばれた渡邊力さん(50)に手加減なしのビンタで気合注入。最後は、お馴染みの「1・2・3・ダー」と全員で絶叫し、会場は熱気の渦に包まれた。
本紙の取材に対して、渡邊さんは「猪木さんは子供の頃からのスーパースターで、生きる伝説。まさかブラジルで会えるとは思っても見なかった。今日から、新たな気持ちで前に進んでいきたい」と興奮冷めやらぬ様子で語り、気を引き締めた。(終わり、大澤航平記者)
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13年から、二期目の参議院議員を務める猪木氏。「選挙権が18歳に引き下げられたが、余りにも若者に元気がない。選挙に行け、バカヤロー! 1・2・3・ダーといったら当選していた」と笑いを誘った。また、とある日の予算委員会で安倍晋三首相への質問の冒頭で、「元気ですかー!」と言ったら、議長から「心臓(晋三)に悪いから、やめてくれ」という逸話を披露すると会場はどっと笑いが起こる場面も。猪木氏の元気に、多くの人が元気をもらったのでは?!