社会保障制度改革が年末までに下院承認される可能性が13日にゼロになり、潮目が変わった感じがする。
ここ数カ月は株高、格付け上げ、レアル高、経済基本金利の下降が大きな流れだった。
でも今後は株安、格付け下げ、レアル安、金利上昇に向かう潮目になったと一部専門家は指摘する。
というのも、この制度改革を強く求めているのはマーケットだからだ。彼等が、国の財政健全化に最も大きな障害だと認識しているのが、この問題だ。
年内承認不可となり、最後に悔しまぎれの演説で、同改革の報告官、アルツール・マイア下議は本会議場の発言台に立ち、「Que pais e esse!(なんて国だ)」を連発していた。
「田舎の農業労働者にはわずか1最賃、民間企業に勤める会社員向けのINSSには月額5千レアル余りの天井があるのに、司法公務員、中でも裁判官で複数の役職兼任者などは4万レアル以上の退職時の給与全額を、そのまま年金としてもらい続けている。こんなヒドイ格差を許していいのか」と実にまっとうなことを言っていた。
だが、それを聞いている下議はほぼいなかった。だいたい、そういう政治家本人も優遇された職種の一つであり、目クソ鼻クソを嗤うとはまさにこのことだ。
興味深いことに、最初に「下院承認は来年になった」と暴露発言したのは、PMDB重鎮のロメロ・ジュカー上議だった。テメル大統領の腹心であり、情報源は確実だ。
つまり、これは〃観測気球〃だった。だからその直後にマイア下院議長、テメル、メイレーレスがそろって否定発言をし、マーケットの反応を観た。
ジュッカ発言にマーケットが激烈な下げ反応をしなかったのを見て、翌日正式に来年承認を発表した雰囲気だ。
マーケットの圧力を背景にして、下院承認をテメルに強いていたのは、メイレーレス財相だろう。元ボストン銀行世界頭取であり、世界の金融界とはツーカー。
ここで社会保障制度改革が通っていれば、メイレーレスの手柄となり、来年の大統領選立候補に向けて大きな好材料になっていた。だが彼自身は政治交渉力が弱く、テメル本人もジャノー告発2連発で〃打ち出の小槌〃をふりつくした状態だから、余力が残っていなかった。
マーケットからしてみれば、テメルの余力を見るリトマス試験紙がこの改革だったともいえる。
「来年に延期」との発表と同時に、同財相はマーケットのご機嫌を取ろうと、来年のPIBは3%弱に上方修正するとか、社会保障改革が通っていれば3%を超えていたとかの楽観的な観測を流した。「今年ダメだったものを、選挙年である来年通すのはさらに難しい」とは専門家でなくても容易に判断できる。
とはいえ、国民からの支持が3%という史上最低政権にとって、唯一の後ろ盾であるマーケットの期待を裏切ったことは明白だ。
折しも同じ頃、米国の公定歩合は0・25%上げを発表。今回は上げのタイミングが短い。米国が利上げ軌道を本格化させており、テメル政権が「死に体」になったとマーケットが判断すれば、外資を米国へ還流させる潮目になりうる。
「来年2月19日に審議開始」との日程が発表されたのは、「まだあきらめたわけではない」とのポーズ。「可能性はまだあるから、資本引き揚げは待ってね」とのメッセージとも読める。
だがマーケットは「テメルへの見切りはついた。米国の経済動向次第で、いつでも大量の資本を移動させる心づもりはできた」という感じではないか。
いずれにせよ、先週で潮目が変わった雰囲気を感じる。
年末のブラジリアの出来事で最も印象に残ったのはチリリッカ演説だ。サンパウロ州から135万票というほぼ史上最多得票で当選した彼の本職はピエロ。これはサンパウロ州民がピエロに託した「抗議票」だった。
その彼は「来年の選挙にはでないよ。首都で起きていることに本当に落胆した。貴君らは自分のしていることに恥を感じないのか。ボクは神に誓って恥ずかしいことはしていない。だが、ここにいる貴君らは違う。私はそうはなりたくない」との憤懣やるかたなしの様子で演説した。
初めてにして最後の議会演説だ。
いかにも立派そうに振る舞いながらも、実際には思想信条よりも利権で票を売買する議員、汚職議員ばかりの中にいると、ピエロの方がはるかに真面目に見えるという対比が、いつもながら興味深い。(深)