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新年は「最終決戦の年」=LJの今後はいかに?=選挙の結果で左右される捜査=試される国民の理性や倫理

票田の北東伯で熱烈な支援者に迎えられる、選挙プレキャンペーン中のルーラ元大統領(Ricardo Stuckert)

票田の北東伯で熱烈な支援者に迎えられる、選挙プレキャンペーン中のルーラ元大統領(Ricardo Stuckert)

 2014年3月17日に始まった連邦警察のラヴァ・ジャット作戦(LJ)も、4回目の年越しとなった。パラナ州クリチバでの捜査はその前に始まっており、5年越しの汚職摘発となる。


16、17年の動向は?

 2016年は、最高裁のテオリ・ザヴァスキ判事が急逝し、後任のLJ報告官にエジソン・ファキン判事が選ばれた。クリチバ地裁のセルジオ・モロ判事の管轄下におかれる事を嫌うルーラ元大統領にジウマ前大統領が免責特権を持たせようとした事、国外でもLJ絡みの汚職告発が始まった事なども衆目を集めた。
 ルーラ政権下の労働者党(PT)閣僚らの逮捕や、エドゥアルド・クーニャ元下院議長やリオ州のセルジオ・カブラル元知事といった民主運動党(PMDB)の著名政治家にも、捜査の手が伸び始めたのもこの年だ。
 当初はクリチバ地裁のみが扱っていたLJが、対象となる人物や企業の広まりと共に、リオ州やサンパウロ州、一部はブラジリアでも扱われるようになった事も大きな変化だ。
 一方、2017年は、テメル大統領起訴や、同大統領元側近で元閣僚のジェデル・ヴィエイラ・リマ氏が隠していた大金発見などで、PMDB包囲網が狭まった。民主社会党(PSDB)前党首のアエシオ・ネーヴェス上議が6月に捜査妨害などで起訴されたのも、汚職が政界を汚染していた証拠だ。ルーラ元大統領やカブラル元知事ら、免責特権のない大物政治家への判決が出始めたのも、特記すべきだろう。

気になる18年選挙

 ウィキペディアによれば、2014年以降に断罪された人の数は158人。その中には、元大統領やペトロブラス社(PB)元役員、政治家、両替商、ロビイスト、企業家などが含まれている。
 クリチバ地裁が裁いた被告の控訴審を扱うのは南大河州ポルト・アレグレの第4地域裁(TRF)で、ルーラ氏の再審も、ここで扱われる。
 現職の閣僚や連邦議員らは最高裁が扱うが、現時点では、16年のクーニャ元下院議長の議席剥奪以外は、報奨付供述の承認や捜査開始要請の承認などが中心で、大物断罪には至っていない。
 そんな中、気がかりなのは、クリチバでLJを担当するデルタン・ダラグノル検事が、11月27日に開催されたパラナ州とリオ州、サンパウロ州でLJを担当する検事達の会議後、「検事達は皆、2018年は最終決戦の年と自覚している」と発言した事だ。
 同検事の発言は、今年で捜査終了という意味ではなく、18年選挙で誰が選ばれるかでLJの今後に大きな影響が出るという意味だ。そういう意味で同検事は、18年の統一選では、汚職歴がない政治家や汚職撲滅に取り組む事を約束してくれる政治家に投票するよう、国民に呼びかけている。

LJの進展で落ちた議会への信頼感

連邦検察庁のダラグノル検事(Pedro de Oliveira/ALEP)

連邦検察庁のダラグノル検事(Pedro de Oliveira/ALEP)

 ダラグノル検事の呼びかけは、ジウマ氏の罷免運動にも積極的だった社会運動グループによる、汚職政治家落選運動などにも繋がっているが、それとは反対に、議会の中で切々と議会や政治の実情を嘆いた人物がいる。識字力のなさなどを指摘され、選挙高裁でテストまでやらされたチリチッカ下議だ。
 12月6日に7年間の任期中初めて壇上で語った同下議は、議会の中にも正しい人、良い人はいるが、自分は偏見や差別を受けた事などを語ると共に、「恥ずかしい」と連発し、汚職まみれの政界を批判。政治にはすっかり失望し、次の統一選にも出ないと明言した。
 ダラグノル検事がLJ継続の最大の敵としたのは議会や行政で、司法関係者の理解も捜査継続を妨げうるという。「汚職は反吐が出るほど汚い犯罪」とまで言ったルーラ氏が、実は組織だった汚職構造を作り上げ、指揮していたと疑われている。また、リオ州でLJを担当するマルセロ・ブレタス判事が逮捕を命じた企業家を最高裁判事が釈放し、州議員を州議会が釈放するなども、議会や行政、司法がLJ進展を妨害する例といえよう。

LJと景気の動向

 LJでは、不正摘発で信用を失い、事業を受注できなくなったり、罰金を科せられたりして経営困難に直面した汚職企業も多い。オデブレヒトなどは国際的な汚職企業として、他国検察からの捜査対象にもなっている。
 一方、政治家の指名で就任した総裁や役員の汚職加担で多大な損失を計上したペトロブラス(PB)は、製油所建設その他の多岐にわたる事業で資金を吸い上げられ、信用格付低下も含めた被害を受けた。だが、人事・運営面での自浄努力や、個人や企業との司法取引による資金返還などで、回復基調に戻ってきている。
 LJの被告の一人がブラジル経済は「汚職で回っている」と言ったのはLJ初年の事だが、汚職に手を染めた大手企業の業績不振や経営危機は、他の業種にも影響を及ぼし、深刻な景気後退に繋がった。
 2015年に始まった景気後退は、数字上、17年に終了したが、失業率上昇や所得減などで苦しんだ国民の多くは、景気回復を十分実感できぬまま、年を越した。
 だが、17年第3四半期の投資回復などは、PBの信用格付回復などと並び、LJによる暗雲に切れ目が出てきた証拠ともいえよう。

ルーラ氏は今もLJを批判するが

反汚職対策と刑法改正に関する下院の公聴会でのモロ判事(José Cruz/Agência Brasil)

反汚職対策と刑法改正に関する下院の公聴会でのモロ判事(José Cruz/Agência Brasil)

 サンパウロ州グアルジャーの三層高級住宅がLJ絡みの形を変えた賄賂と判断され、9年半の実刑判決を受けたルーラ氏は、12月中もリオ州などで選挙キャンペーンを展開し、大統領選への熱意を示している。
 LJ第2審が今年1月に決まったが、その前から「今年の選挙に勝つのは難しい事ではない」と言っていた同氏。上級裁判所に抗告しながら選挙戦を戦う意向で、当選後の認証の時点で阻まれれば、自分が推す労働者党(PT)後継者にその座を譲る事でPT政権復活を目指している。
 ルーラ氏は人心を掴むのが上手く、キャンペーン中も、LJが企業を直撃した事でブラジル経済が落ち込んだ、リオ州の石油化学コンビナートの工事停滞はブラジル経済にも大きな損失、といった発言を繰り返してLJを批判している。
 自分達が作り上げた汚職システムにより、過去の大統領は得られなかったほどの富を築いた挙句、国民や企業を窮地に追い込んだ同氏。だが、国民の中には、「ルーラやPT政権は色々な扶助も与えてくれたが、今の政府は何もくれない」と文句を言い、ルーラに投票するという人も多い。
 リオ州の治安や保健衛生上の問題が、汚職による公金損失が招いた財政危機の結果の一つなら、国が大盤振る舞いできないのも、LJで摘発された汚職などによる景気悪化の結果の一つだ。否、その前に、様々な扶助なども、汚職で経済を回して可能にした、〃選挙対策の一つ〃だったといったら言い過ぎか。
 ルーラが大統領選に出るなら彼に投票すると言った人を、知人は「誰が今の不況の種を蒔いたか考えろ」といさめた。国民がルーラの話術に惑わされず、真実に目を向けたなら、ダラグノル検事による「統一選では、汚職歴がない政治家や汚職撲滅に取り組む事を約束してくれる政治家に投票して!」との呼びかけも生きてくる事だろう。
 LJにとっての「最終決戦の年」は、国民の理性や倫理を試される正念場の年でもある。