それから何だかステービスの様子がおかしかった。私のアンチーク・ジュエリーの直しも暇がかかることが多くなった。度々いないことがあった。
ある日、息子が「父は肺がんにかかった」と教えてくれた。
「絶対あの植木があなたにエネルギーをあげていたのに。私が持って帰ったからあなたが病気になった。あの植木は返すから…あの植木は返すから…ごめんね、持って帰ったのが間違いだったわ」
「そんなことはない、私の病気とは関係ないよ。あれはあんたにあげたんだ。私の家の庭にはたくさん植わっているよ。心配しないで、それよりあれを見て私のことを思い出してくれたらうれしいよ」
彼は本当に嬉しそうに言った。今日は特に優しい顔をして私を見て微笑んで言った。
「本当? 本当にもらっていいの?」
「本当だ。ウソじゃあない。あんたにあげたんだよ」
病人とは思えないほど生き生きとした表情をして言った。それが彼を見た最後だった。三ヵ月後、彼は亡くなった。灰色の雲に覆われた日曜日の朝だった。
あれから何年たつのだろうか、今、我が家には幅四、五m のガラス窓をびっしりと緑の葉のカーテンで覆い尽くしている部屋がある。
不思議なことに鉢から伸びているのはあの最初の一本の蔓だけなのだ。これがたくさんの枝を出して延々と伸び茂っている。
早く育てたいとたくさん挿し木をして苗木を作った。しかしどれも一〇㎝どまりで、必ず途中でみんな枯れてしまうか腐ってしまう。この最初の一本の蔓には何か特別な命の源が潜んでいるのだろうか。青々と生き生きと益々枝を伸ばして、家中にエネルギーを発散してくれて、私に活力を与えてくれている。その上この緑が私に平安を与えてくれている。
じっと見ているとステービスの在りし日を思い出す。
「これでいいかな」…細工の終わったアンチークジュエリーを袋からとりだしながら、彼はにっこりする。机の上に並べると満足そうな顔をしてうなずいて、そして私の顔を見る。
私が手に取って「ワー完璧!」と言って喜ぶと、彼は目じりにしわを寄せて、それから恥ずかしそうに「では」と言って、またさっきの袋に入れる。
その静かなしぐさ、温和な笑み、まるで昨日の事のように思い出す。
ステービス世話になったね。良い思い出をもらった心にのこるブラジル人。ステービスありがとう。又どこかで会えるわね。 (二〇一四年)
持つべきは友
援護協会では老人のために色々な授業を毎日行っている。この日、「作品の発表会とバザー」があるというので顔を出してみた。
沢山の年老いた女性が詰めかけて盛況である。テーブルを囲んで折り紙のグループ、編み物のグループがあり、その奥に首飾りを作るグループを見つけると、私は吸い寄せられるように、そのテーブルに座った。
まわりの女性の手先を見ているとみなさん苦労して、ビーズの小さな穴にナイロン糸を通している。首飾りの作り方は前々から習いたくて、私はあちこち先生や教室を探したが、良い出会いが無くて、そのまま今日に至っているからチャンス到来。さわりだけでも習っておきたい。