ルーラ元大統領への第4連邦地域裁(TRF4)からの12年1カ月の実刑判決宣告は、1月24日前後数日のブラジルの話題を独占した。これが致命傷となって、10月に行なわれる大統領選への出馬が危機に立たされる可能性があるからだ▼だが、普通の人物なら致命傷となるこの判決も、ルーラ氏には全く効いていない。約1週間後に行なわれたダッタフォーリャの大統領選に関する世論調査で、「ルーラ氏に投票したい」という人が、様々な場合を想定してもいずれも35%前後で他の候補を寄せ付けないという結果が出てしまった。▼「ルーラ氏の支持者は教祖様を崇めるように熱狂的」。もちろんそういう見方もできる。だが、それだけで片付けてよい問題なのだろうか。コラム子には正直疑問だ▼今回のTRF4の裁判は、担当報告官が自身の判断を固めるのに通常なら半年かかるところをわずか1、2カ月で行なった超スピード裁判で、その後の書記官による確認も早かった。この2人の作業だけで半年は早くなったようなものだった▼「10月の大統領選の前までにルーラ氏の件をはっきりさせたい」。その気持ちはわかる。ルーラ氏がこの件のみならず、他に5件ほど、今回の住宅物件を介した収賄計画の容疑よりずっと重い容疑を抱えていたのも事実だ。だから「法を司る者」としての正義心を突き動かされたのも理解はできる▼だが、どれだけ長時間かけて熱心にルーラ氏の物件の所有の根拠や、政治家としての道義性を話したところで、ルーラ氏の弁護側や、同氏の信者が疑問に感じる「これがなぜペトロブラスの公金を使った犯罪ということになるのか」への直接的なポイントには触れられずに終わってしまった▼「最近は受領書を残さない犯罪が増えている」とジェブラン・ネット報告官は語ったが、コラム子には弁解のように聞こえた。受領書を見つけろとまではいわないが、「状況証拠」ではなく「物的証拠」にもっと近づく形で判決を導くことはできなかったのか。急いであわてて判決を下すよりも、もう少し時間を掛けてでも良いから、その方法論に近い裁きをしてほしかった▼裁判の経過は生の中継でもその後の報道でも確認したが、「ああ、これじゃルーラ支持者は納得しないよ」と思った。案の定、その通りになってしまった▼今のままだと、仮に現状で噂されている通りに「3月に禁錮刑執行」になっても、ルーラ信者を黙らせることはできないだろう。「証拠もないのに捕まった」「同じような住宅不正なら他の政治家だってやっているはず」などと彼らは主張するだろう。そうなってしまうと、労働者党(PT)が早いうちから計算しているような「ルーラは、第2のネルソン・マンデラ」という、無実のヒーローのストーリーをみすみす実現させることにもなりかねない▼コラム子としては、やはりもう少し時間をかけて、物的証拠にもう少しこだわった裁きをしてほしかった。いや、もっと言うならば、「経済開発銀行(BNDES)の公金をゼネコン企業に不正巨額融資」くらいのスケールの大きな事件で罰せられてルーラ出馬失格となる方が、すっきり納得する人は多いはず。それには時間が足りなかったか。(陽)