今週から来週にかけて、ブラジルでは、最も有名なリオをはじめとしたカーニバルの週間だ。コラム子がブラジルに来て住みはじめたのは2010年4月のことだが、この季節を体験するのも8回目。既に自分にとってもおなじみのものとなっている▼ただ、日本からやってきた身として毎度思うことなのだが、ブラジルでのカーニバルの印象と、日本をはじめとした外国のそれではあまりにイメージが違いすぎることだ▼日本だととにかく、「女性が裸に近い派手な姿でサンバに乗って踊る祭」という印象が強い。それが決して間違っているわけではない。だが、彼女たちはただ楽しく踊っているわけではないこと。その認識がどうも日本人には足らないように思われるのだ▼その証拠とも言えるのが、日本版ウィキペディアの「リオのカーニバル」の項目だ。そこに書かれているのはあくまでダンスと音楽のことだけで、一番肝心なところが完全に抜け落ちているのだ。それは「カーニバルは、エスコーラ・デ・サンバと呼ばれるサンバグループ同士の真剣なコンテストである」ということだ▼逆にこれがポルトガル語版ウィキペディアの「リオのカーニバル」だと、割かれていることはほとんどデスフィーレ(パレード)でのエスコーラの対決のことだ。グローボ局が毎年、2夜連続で夜通しでリオのサプカイのサンボードロモ(サンバ会場)から中継しているのは何も「裸踊りに興じている人たち」ではなく、エスコーラ同士の戦いなのだ。それはサッカーの選手権のそれと同様のものであり、成績の悪かったエスコーラは2部に落ちるというシステムまであるほどだ▼ブラジル人の中にどれだけこのコンテストに夢中か示す例をあげておこう。これもやはりポルトガル語版ウィキペディアなのだが、この毎年のリオのデスフィーレでの成績を、1932年から2017年までの結果を、参加エスコーラはもちろん、審査員から獲得した得点までが詳細に書かれている。日本でこのように古い公式記録が残っているのはせいぜい野球くらいのようだが、それくらい「競争することに長年のファンがついている」存在なのだ▼かくいうコラム子もブラジルに来た当初はそうした事情がわかっていなかった。少しずつそれがコンテストであることを知っていき、数年前に年度別成績表をネット上で発見したときは、ブラジル人たちのデスフィーレに対する愛を感じ、深く感動も覚えたほどだ▼こうしたことからコラム子もグローボの深夜の中継を見るようにしているのだが、とにかく名門エスコーラになるほど出番が朝方になるのでつらい。ベイジャ・フロール、マンゲイラ、サルゲイロ、ポルテーラ、チジュッカといったところが名門だが、サンバの主題歌が全て同じに定められ、各エスコーラの持ち時間が1時間ある中でこれを見続けるのはよほどの愛情がないとできないことでもある。それでも、天才演出家パウロ・バロスの奇想天外なパレード演出などを見ると「起きてて良かった」と思えるものだ▼浅草サンバ・カーニバル関係者は当然周知のことだろうが、こうしたブラジル現地流のカーニバルの楽しみ方が、日本の一般の人にも伝わらないものか。幸いなことにカーニバルに憧れる日本の若者たちがエスコーラの一員として参加する話も珍しくない。そんな彼らの体験談が日本で正確に伝わって行って、徐々にカーニバルの印象そのものが変わっていけば良いのだが。(陽)