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どこから来たの=大門千夏=(42)

 あああ、今日は私の誕生日だった。
 絵にかいたモチ、まさしく絵に描いた誕生日。ケーキもなく、乾杯もなく、…それどころか昼食もなく、夕食もなかった。
 忘れられない誕生日、思い出深い誕生日。桃子は確かにこう言った。ほんとうだ。こんな日でもやっぱり一つ歳をとるのであろうか。
 大失敗の誕生日。歳はお返ししたい誕生日。
           二〇一一年)

食事のお供(リオの浮浪児)

 旅行中に一番困るのは食事。
 一人レストランで食事をしているわが姿を想像するだけで気分がまいってしまう。なんとも情けない。周りはみんなカップルなのに私だけが一人淋しそうにテーブルに座っている。
 きっとボーイにバカにされているに違いないなどと想像して劣等感の塊になる。だから絶対に一人では入りたくないし、入らない事にしている。
 朝はホテルのレストランで忙しく食べるので気にならない。夜はサンドイッチを買ってホテルに帰ってテレビを見ながらゆっくり食べる。
 問題は昼食。いつも昼食抜きで我慢していたが、やはり体に悪いと考えて、ある時ランショネッテ(軽食堂)の止まり木に女性が一人で食べている姿をみつけて勇気百倍、私もパステイス(揚げ物の一種)かコッシンニャ(鶏肉とポテトの揚げ物)を食べることを覚えた。
 二個も食べると腹いっぱいになる。そんなわけで仕事でリオに行った時は、必ず坂の上にある小奇麗なランショネッテでパステイスを 食べるのがいつの間にか習慣になってしまった。この店の前の坂道からはるか下にコパカバーナの青い海がほんの少し見えるのも気に入っている。
 その日もこのランショネッテでどこに座ろうかとウロウロしていたら、薄汚い男の子が寄ってきて「おばちゃん僕にも食べさせて」と言う。
 スリかなそれとも本当のこじき? でも全身汚らしいが、よくよく見るとかわいい顔をしている。まだ悪には染まっていないような、あどけなさが残っている。
「としはいくつなの?」
「一一歳」
「名前は?」
「マリオ」はきはきと答える。観光客慣れしているのかもしれない。
 でも私にとって誰かと食事ができることはありがたい。じゃあテーブルに座ろう。そういって隅のテーブルに座った。店員が胡散臭そうな顔をしている。
 パステイスを彼用に二個注文した。途端に男の子は信じられないといった顔をして、目を大きく見開いて私を見てニコッと嬉しい顔をした。でも次にはどこを見たら良いのか、手をどこに置いたら良いのか、さっきの図々しさからは考えられないほどおどおどしている。色黒で汚れた顔、埃で固くなった髪、洗濯したことがないようなTシャツに半ズボン、足にはゴムぞうり、白く粉が吹いたような腕と脚、でも笑うとエクボがついてかわいいのだ。
 店員はあからさまに不愉快な、迷惑そうな顔をしてみている。お客も私たちのテーブルをよけて通る。訝しげにじろじろ見ている。
「兄弟は何人いるの?」
「六人」
 男が四人に女が二人だといった。