私のように背丈の小さいものですら、城のドアを通る時は、ちょっと頭を下げるようにして通る。せせこましい。
この時、あれれれ? この感触なんだか知っている。頭を少しかがめて通り過ぎる。しばらく歩くと、また隣の部屋に行くために頭を下げて通る。…何処かでしたことのある動作だ。
しばらく行くと今度は幅の狭い階段があって、母と二人で横並びになったり、一列になったりを繰り返しながら登ってゆく。…アレ、この体の動かし方も記憶がある。…そうだ夢だ! 夢で体験した。夢のとおりだ。そうしてみるとこれから美しい庭園が見えることになっている。
五階の階段を登りきったらテラスに出た。夢のテラスはもっと大きかったが、本物は幅が狭くて小さかった。その時眼下に広がっている城の大庭園は夢で見たものと同じ!
ただ、夢では水色の空に深い緑色の森だったが、今ここには灰色の空が見え、半円形に城を囲んだ川の向こうに深い森が広がっていた。この森の色も灰色だった。
右手に母が並んだ…そうだ。左に夫がいるんだ。確かに一緒に並んでいるのだ。わたしたちと並んで今この城の庭を一緒に見ているんだ。よかった貴方も一緒にこの美しい庭園を見ることができて…。
六ヵ月先の予知夢だったのだ。
こんなことがあってから夢を注意するようになった。しかしフロイトに言わせると階段は性的興奮の表れ、ドアは女性器の表れだそうだ。これじゃあ身もふたもない。
そういえばコロール大統領の時、夢の中で誰かが耳元で囁いた。その言葉どおり預金を全部引き出した。おかげで預金凍結という難を逃れた。
いろいろ知らせてもらうことは多い。これがセックスだの欲求不満だのと解釈していたら私はあの時、金欠病で大困りしていたはずだ。
しかし、よいことばかりではない。昨年はベットから二回も落ちた。夢のせいだ。
一度は人を追っかけて「まてー」とかなんとか怒鳴って、その男が崖から飛んだので私も追っかけて勢いよく飛んだ。ベットのそばにあった椅子にいやというほど額をぶつけて痛くて目が覚めた。大きなたんこぶを作ってみじめな気分。あの男、誰だったのだろうか。
もういちどは小高い山から隣の山に飛び移ろうとして、足が存分広がらなくて落下。イタタタタとまっ暗い部屋の中で半分寝ボケてシーツ片手に呆然とする。これも夢のせいだ。
何の予知夢だったのか、これは今もってわからない。
でも年と共に夢を見る回数が減ってきた。そのせいか寝言を言うようになった…らしい。
「アキレタ人ね、さんざん寝言を言って、終わったかと思うと急に歌をうたいだして…起きているのかと思ったら寝てるのよ。それからクスクスケケケと笑ってるの、いやーねえ、夜中に…気色悪い」と母に言われた。
寝言も夢の線上にあるのだろうか、この事を書いた本には未だ出会わない。
先日蛇の夢を見た。夢占いの本によると「お金が入ってきます」と書いてある。私は思わず「縁起イーイッ」。数日ウキウキと喜んだ。
しかしこれもフロイトに言わせると「性的欲求の表れ」なんだそう。こうしてみると夢をよく見る私はどうやらエッチの塊ということになるではないか。お品よく理性ありそうにふるまってはいるが、何のことはない。一皮むけばエッチそのもの…やれやれエライ事でございます。