貨幣とは何か――経済を構成する基礎要素である貨幣存在の根源を見つめ直すため、サバティカル(研究休暇)を利用して、立正大学経済学部経済学科の林康史教授が、昨年12月上旬から先月初旬にかけ当地に滞在。調査成果の報告のため、先月1日、本紙を訪れた。
仮想通貨というデジタル形態による新たな貨幣が世に出回るなかにあって、「一度立ち返って、貨幣とは何かを考えなくてはいけない時代が到来している」という林教授。大学時代に探検部に所属しアンデス山脈を旅したという脚力は今も健在で、ブラジリアやサンルイス、ベレン等のほか中南米各地を訪れた。
滞在中、調査テーマの一つとなったのが、無貨幣経済だ。貨幣が存在しない社会において、どのように物々交換が行われるかを自身の目で確かめたかったという。
林教授によれば、言語の通じない先住民の部族間で物々交換が行われる場合、一方が交換したいものを置き、もう一方がそれに見合ったものを置く。そして、一方が相手のものを持って帰った場合に、そこで交渉が成立。そうでなければ失敗だったという。
「先住民には需要という概念しかない。需要・供給曲線が存在せず、子供の交換のようだった」と興味深げに語る。
また、もう一つのテーマとなったのが、地域通貨だ。嘗て日系コロニアの中でも使用されていた地域通貨への関心を示したほか、ベネズエラのリベルタドル市でハイパー・インフレ下の貨幣不足対策として、昨年12月から発行された地域通貨・ペナルについて調査を行った。
最後に、ブラジルの政治経済情勢について「10年前までだったら汚職もうやむやになって終わっていただろうが、少しずつ変わってきている」と印象を語る一方で、「コモディティー依存経済のまずさに気づかなくてはいけない。世界中が理系で食っているなか、ちゃんとした教育が必要」と考えを述べた。