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「外国で日本文化を発見」=着物図案師、古城さん来伯=JHで展示や講演会開催

講演中の古城さん

講演中の古城さん

 日本の伝統衣装である「着物」の柄をデザインする図案師、古城里紗さん(岩手、36)が、日本国外務省が行う「日本ブランド発信事業」の一環で2月24日に初来伯し、その足で同日、サンパウロ市のジャパン・ハウスで講演会とワークショップを行った。講演会には約200人が押し寄せ、セミナールーム横の空間には古城さんの作品が展示され、参加者らは繊細な切り絵作品を楽しんだ。古城さんは講演会の直前、本紙など日系メディアの取材に応えた。

 古城さんは「中学卒業まで日本に暮らしていたが、自分の身の周りしか知らなかったことに気づき、このままでは行き詰ってしまうと思った」と苦笑し、「外国文化の中に入って日本文化を見つけたような感じです」と説明した。
 古城さんは中学卒業後、親の仕事の関係で米国マサチューセッツ州の都市ボストンに引越した駐在員子弟だった。現地校に通い、ニューヨーク市の美術学校に入学。卒業後はグラフィックデザイナーとしてそのまま活動し、2010年に日本へ帰国した。
 彼女が帰国を決めた理由は「自分のルーツを知るため」だという。「優れたデザイナーはみな、自分の歴史的背景などを深く掘り下げて理解し、自分の作品に反映させていることに気づいたから」という。
 ルーツ探しをしていたそんな時、伊勢神宮の式年遷宮に合わせた仕事のために、三重県伊勢市に滞在した。地域住民との交流を通し、精密な柄を特徴とする伊勢型紙に出会って魂をゆさぶられ、図案師の仕事を学び始めた。
 「伊勢型紙」は着物の生地を染めるため、柿渋で貼りあわせた美濃和紙を彫刻等で切るなどして模様を出した型紙だ。
 古城さんはもともと切り絵作品も手がけていたこと、イスラミックアートやアールヌーヴォーなど細かな装飾が好きだったこともあり、すぐに伊勢型紙に魅了された。
 今回の事業プログラムによりコロンビア、ブラジル、エクアドルの3カ国で講演会とワークショップを行ったほか、各国のアーティストと「ルーツ」というテーマで意見交換する場も設けた。
 意見交換会に参加した日系アーティストの中に、自分の背景にある多文化から自分なりの表現や個性を見出そうとしている人がいたことに触れ、「10年以上の米国生活の中で、自分が持つ歴史的背景への違和感や気づき、反発などが人や文化を豊かに熟成させていくと気付いた。そこに様々な可能性が秘められていると思う」との感想を語った。


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 図案師の古城里紗さんは、「いま日本で日常的に着物を着ている人はとても少ない。しかし、休日や祝い事などの特別な日に着物を着る人は、少しずつ増えている。持っていても管理が大変、着るのにも手間が掛かるし日常生活で使う機会は少ない。今は休日に着物を着たい人のために貸すお店もある」とのこと。東洋街でも文協と着物店で組んで、日系イベント時に着物レンタルと写真撮影の仮設店をやってみたら? 若い人には着物も「コスプレの一種」のようなもの。意外に大勢の人が来るかも。
     ◎
 古城さんが特に好きな分野として挙げた「アール・ヌーヴォー」は、「新しい芸術」を意味するフランス語。19世紀末から20世紀始めにかけて、欧州を中心に発展した国際的な美術運動だ。ところがこれは、日本の伊勢型紙に影響されて生まれたものだという。こうした偶然について古城さんは「最初は驚いたけれど、自分の中のルーツ意識が無意識に反応して惹かれたのかもしれない。非常に興味深かった」と語った。ルーツを深く掘り下げていくことで、自分が単純に好きだと思った物の背景に予想もしなかった関連性を発見することがあるようだ。