東京五輪の2020年にブラジル公教育に柔道導入を――16年10月に日本国文部科学省と伯スポーツ省との間で、「スポーツ分野における協力覚書」が締結されたことを機に、日本政府の国際貢献事業「スポーツ・フォー・トゥモロー」の一環として、本年度から「柔道導入プロジェクト」が開始された。今月5~15日までサンパウロ州5都市で指導者講習や現地視察を行うため、筑波大学から岡田弘隆准教授(バルセロナ五輪86キロ級銅メダリスト)らが来伯。6日、ブラジル日本移民史料館で記者会見が開かれ、公教育導入への期待を語った。
ブラジルの柔道人口は約200万人、日本の17・5万人を遥かに凌駕する。当地の五輪個人競技の中で、柔道のメダル獲得数は22個と全競技の中で最多を誇る。
すでに市単位では試行錯誤で公教育に導入している学校もあるが、政府間協力で公教育に必修科目として導入する試みはブラジルが初。柔道の人間教育における側面を重視したものという。
ブラジル講道館柔道有段者会の関根隆範会長は「次の国家百年の計に何が大事か。柔道は将来の人創りに間違いなく役に立つ」と意義を語り、「導入のためには、柔道を学問として理解を深める必要がある。支援を得ながら、学校柔道への理解を広めていきたい」と期待を滲ませた。
手始めに昨年9月から1カ月間、ブラジルの柔道指導者を招聘し、筑波大学で学校柔道の指導を実施した岡田准教授。今回はサンパウロ市、サンジョゼ・ドス・カンポス、モジ・ダス・クルーゼス、サントス、バストスの学校等を視察し、学校柔道に関する講義や実技指導を行うという。
日本では2010年から中学校で武道が必修化され、柔道はその選択肢の一つ。今回の取組みについて「羨ましくも嬉しくも思う」と岡田准教授は語る。
同学の前身・高等師範学校・東京高等師範学校で校長を務め、講道館柔道の創始者である嘉納治五郎。その教育理念『精力善用・自他共栄』に言及し、「柔道の目的は人間教育だ」と強調した。
「身体能力だけでなく、集中力も高められる。対人競技の特性を踏まえ、相手に対する敬意を学び、相手との練習のなかで技を身につける」と意義を語り、練習で体得した心構えを実生活に生かし、人格形成に影響を与える教育効果を説明した。
日本スポーツ振興センター情報国際部企画運営課の渡辺聡事業担当によれば、今回の視察を踏まえ、来年度は日本への第2回目の柔道指導者派遣事業の実施も予定されるという。
公教育の導入は2020年以降となる見通し。連邦、州、市のどのレベルで学校教育でどう導入されるかは未定だが、「手探りで進みはじめた状況。導入の仕方は走りながら検討していきたい」と語った。
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柔道をブラジルの公教育に導入するプロジェクトに関して、渡辺事業担当は「連邦レベルで学校柔道の指導要領を策定し、浸透させてゆくのは難しい」との見方を示し、州もしくは市レベルでの導入が現実路線となりそうだ。カリキュラムの「必修科目」にするなら、柔道教師も学校の数だけ必要になる。例えばサンパウロ州だけで州立校は5400校もある。日本全体の公立中学校が9479校だから、サンパウロ州だけでその半数以上。間違いなく教師が足りないし、柔道を練習するのに必要な道着、畳などもない。とはいえ、ブラジルに教育が大事なことは間違いない。ぜひじっくりと導入計画を練って欲しいところ。
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ブラジル講道館有段者会の原田道男ロベルト理事は、「柔道教育はまだ新しい。どのような指導要領を策定し、どのように学校で指導していくか、プログラムを具体的に検討していきたい」とのこと。日本では中学生から柔道が始まるが、「ブラジルでは中学生では悪事に手を染めてしまっているから遅い。5~7歳で教えていくのが大事」とも。柔道による特徴ある教育で、年少の段階からを人間形成の土台をしっかりとつくりたい考えだ。犯罪減少に柔道が役立てば、国民全員が感謝?